デンマークのイノベーティブなデザイン会社

 ArchiMed(アーキメッド)は、ヘルスケアの分野でエビデンス・ベースド・デザインという手法を使いランドスケープやインテリア、サービスデザインを行う会社です。2008年にペニラ・ウェイス・タッキルソンさんによって設立され、これまで高齢者住宅やリハビリセンター、病院のデザインの仕事をされてきました。

最期まで幸せに暮らせる家は、デンマークでは、<br />どのようにデザインされているのか?

 ペニラさんは看護婦と政治家の両方のキャリアを持ちながら、健康科学とリーダーシップ・イノベーションの博士号を持つ異色の起業家の女性です。ビジネスでイノベーションを起こすためには、異分野との融合や分野横断的な発想が欠かせません。その創造性を発揮するのは専門分野と別の分野の知識を持つT型人材と呼ばれる人々です。

 しかし彼女はそこからさらに進化したπ(パイ)型人材に当てはまります。2つかそれ以上の複数の専門分野に精通し、かつ全体の調整もできる人なのです。医療と政治、その上2つの博士号を持つペニラさん。

 医療と政治というまったく異なる分野で、どのようにそのキャリアを形成されたのか不思議に思われたかもしれません。まずデンマーク人は一般的に自分たちの国、あるいは地域をよくするために自らが政治に参加する姿勢があることが背景にあります。また市議会議員は現在の職業のままで立候補できるのです。議会は夜に開かれ、看護師は看護師のまま給料をもらいながら、議員の仕事に就くこともできます。

 そんなペニラさんに、起業に至った理由を聞いてみました。

「8年間看護師として働いた後、アムトと呼ばれる広域自治体(2007年の自治体改革で現在は廃止され、現在はレギオンという連合自治体が引き継いでいる)で病院を運営するヘルスケアシステム部門のマネージャーとして3年間働いていました。

 そこでヘルスケアの建物の環境が、病院で働くスタッフや患者に対して行われる仕事ほど政治的に注意が向けられていないことに気づきました。デンマークではヘルスケアの建築について取り組む部門と、実際にそこで起きている組織に取り組む部門と2つに分かれています。

 建築の仕事をしている家庭で育ったこともあり、ヘルスケアでも組織とプロセス、それから実際の建築のすべてを同時に考えることが必要だと非常に直感的に感じました。

 新規の建築プロジェクトはどのように決定して準備すべきなのか、なぜこの病院は立て直す必要があるのかなど、注意深く見ていきました。1990年代後半のデンマークでは、患者の安全性や幸福度、スタッフの満足度や健康状態と、建物の建築やインテリアの在り方の間に関連性がなかったのです。

 そこで、その失われていた関連性について興味を持つようになり、健康科学について学びました。特に建築と健康の一致、不一致とは何か調べました。そこでエビデンス(根拠)がヘルスケアのデザインの流れで中心に来ていることを学び、エビデンス・ベースド・デザインというものに出会いました」