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9月9日 18時0分
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日本、米国、欧州、アジア それぞれのファンダメンタルズが映す為替と株価 - 広木隆「ストラテジーレポート」

日本化する欧州 - 本格的な量的緩和へ舵を切ったのか

「通貨は詩と似ている」。幼いころから詩をこよなく愛した、前欧州中央銀行(ECB)総裁、ジャンクロード・トリシェ氏の言葉である。「五百年前の俳句のように金貨は鋳造時の姿を保つ。これは非常に重要な点だ。時を経ても価値を保つ不変の大切さを我々に教えてくれるからだ」。
(日本経済新聞「私の履歴書」)。

セントラルバンカーにはインフレファイターのDNAが流れている。「通貨の番人」との自負が遺伝子として引き継がれている。特に欧州はその気概が強い。「ユーロを守るためならなんでもする」というスタンスが一番の根っこにある。リーマン危機から3年も経たず、欧州債務危機が拡大する最中の2011年に当時ECB総裁だったトリシェ氏は2度の利上げを断行している。それだけをもって金融政策を誤ったのかは評価が定まらないところだが、日米英欧のなかでは欧州の経済状況が最も厳しいことは事実である。日米英はリーマン危機の後遺症から立ち直りつつある。特に日本は15年に及んだデフレを脱した。ところがその反対にユーロ圏は「ジャパナイゼーション(日本化)」とも言われるデフレ懸念が深刻だ。ユーロ圏の8月の消費者物価指数は前年同月比+0.3%とデフレに陥る瀬戸際にある。一向に改善しないディスインフレ状況を受けて欧州中央銀行は追加の金融緩和策を打ち出した。すべての政策金利を0.10%引き下げ、指標となる金利は過去最低の0.05%とした。預金ファシリティのマイナス金利幅は-0.10%から-0.20%へと拡大した。これを受けてドイツの短期金利は大幅なマイナス圏に入っている。3年物短期国債の利回りまでがマイナスという異常とも言える事態となっている。このドイツの短期金利のマイナスは、金融機関がいかに「カネの置き場」に困っているかを反映したものだ。

前回の緩和策で打ち出されたTLTRO(Targeted-LTROs)は、その第一弾が今月実施される。TLTROとは銀行による実体経済への融資を促進するため、銀行に超低金利で期間4年の資金を貸し出す長期資金供給オペレーションのこと。2014年4月時点の住宅ローンを除くユーロ圏企業および家計向け融資額の7%を上限に借り入れることができる。当初分(9月12月)で2000億ユーロ程度の借り入れが出ると予想されている。実はこの前回の緩和策が実行される前(TLTROの初回は9/18実行)に追加緩和策の決定はないだろうと市場の多くは見ていただけに、今回のECBの決定は「サプライズ」であった。

もう一つのサプライズは、ABS(資産担保証券)とカバードボンド(担保付社債)の買い入れを10月から実施するとしたことである。一部メディアの報道によればこの資産買い取りプログラムは今後3年で5000億ユーロとも伝わるが、そもそもABSやカバードボンドの市場規模(及び市中流通量)を考えるとそこまでの規模の買い入れが可能か疑問視されている。いずれにせよ、プログラムの詳細は10月2日のECB理事会後に公表されることになっているので、踏み込んだ評価はそこまで待つ必要がある。しかし、市場というものは性急で早くも追加緩和の催促が始まっている。すなわち、ABSを対象とした資産購入プログラムではなく、日米の金融当局が行ってきたような国債を買い入れ対象とする「ソブリンQE(量的緩和)」の実施である。

量的緩和の定義は明確には定まっていないが仮に「中央銀行がそのバランスシートを拡大すること」と定義すればこれまでECBがとってきたスタンスは量的緩和の正反対であるバランスシートの縮小だった(グラフ)。これは2011年末から実施したLTROの返済を受けてきたためである。今回のABSを対象とした資産購入プログラムの規模感は不明ながら、TLTROの実施と併せてECBのバランスシート拡大に寄与するだろう。ドラギ総裁は会見で、ECBのバランスシートを2012年初めの水準に戻すと述べた。そうすると現在2兆ユーロのバランスシートを2.7兆ユーロ程度まで膨らませることになる。7000億ユーロの量的緩和を示唆したともとれる。



問題は方法論である。ABSだけでは足りないだろう。それが「ソブリンQE(量的緩和)」発動観測を生む要因になっている。
米国株はいいとこ取り相場に戻ったか

8月の米雇用統計で非農業部門の雇用者数は事前の市場予想を大幅に下回った。これを受けた米国の株式市場では売りが先行したが、結局、ダウ平均は上昇して終えた。弱い雇用統計でFRBは利上げを急がないとの見方が市場を支えたと言われているが、果たしてそうだろうか。少し前の相場は「いいとこ取り」だと評されたことがあった。強い景気指標が出れば素直に好感して買われる。一方、弱い景気指標が出ても金融緩和の長期化を囃して、やはり買われる。どっちに転んでも株式相場は上昇した。先週末の市場の反応は、これまでの「いいとこ取り」とは少し状況が異なるように思える。というのは今回の雇用統計は強弱入り交じる結果であって必ずしも「弱い内容」ではないからだ。非農業部門の雇用者数は単月では振れが大きいため、数カ月の平均でならしたトレンドを見ることが定着しているし、時間あたり賃金は若干増加し、長期失業に関する見通しも改善した。少なくとも市場の利上げ観測時機を前倒すことにも遅らせることにも影響を与える内容ではなかった。株式市場の上昇はISM景況感指数や自動車販売など他の景気指標と併せて、米国景気が順調に改善傾向を保っていることを確認したからと考えるのが妥当と思われる。

米国の独り勝ち

米国の景気回復が顕著で、日米欧の三極のなかでいち早く金融緩和の出口を模索している。頭ひとつ図抜けている格好とも日欧が周回遅れにされているとも言えるだろう。前段で見た通り、デフレ懸念の欧州は追加緩和を打ち出し、本格的な量的緩和も視野に入る。日本は4-6月期のGDPが速報値のマイナス6.8%からマイナス7.1%に下方修正された。設備投資の伸びも鈍っている。そういう状況でスコットランド独立の思惑から英ポンドにも弱い材料が出た。ドル以外の主要通貨がどれも買えない状況でドルの独歩高となっている。極めてファンダメンタルズ通りの動きである。



端的に言えば、米国の独り勝ち。国は移動できないが、企業は - ビジネスは、楽々と国境を越える。本日の日経新聞は日本企業が海外で稼ぐ構図が鮮明になっていると伝えている。地域別の営業利益を開示する主要128社でみると、2014年4〜6月期は海外での営業利益が金融危機後で最高になり、減益となった国内の利益を上回った。アジア・太平洋で利益が順調に拡大し、北米も前年同期比で4割増えたのだという。

北米で4割増益である。今の円安の意味は以前とは違う文脈で捉えるべきだろう。 前のレポートで述べたように、製造業の海外生産移管が進み、国内でモノづくりをしていないのだからいくら円安になっても日本からの輸出は増えない。円安=輸出企業のメリットでは必ずしもない。では円安は日本企業や日本株相場にとって好材料ではないのか?好材料である。円安=ドル高であり、その背景には米国経済の回復がある。経済が順調に伸びている市場でビジネスをおこなう日本の(輸出企業ではなく)海外進出企業にとっての好環境がそこにある。

今日、テニスの錦織圭選手が全米オープン決勝のコートに立った。一朝一夕に米国の舞台で活躍できるわけではない。錦織選手は13歳で親元を離れ米国のテニススクールで練習に励んだ。メジャーリーグの世界ではイチロー、松井、そして田中など日本人選手が続々誕生し活躍しているが、そのきっかけを築いたのが野茂である。彼が海を渡ったのが20年前だ。それが後進に道を開いた。日本企業も何年も前から現地化を進めてきた。それがようやく花開こうとしている。為替がぶれようが、国内景気が落ち込もうが、儲かるところで稼ぐ。そういうバイタリティーとグローバル・ヴィジョンのある企業が勝ち残っていける。
稼げるところで稼ぐ

北米だけではない。日経の記事によれば、地域別ではアジア・太平洋の利益が最も大きい。15%増益の4000億円となり、日本の半分に相当する利益を稼いだという。

海外進出で稼ぐというと自動車がすぐに思いつく。実際に富士重の株価は高値更新が続く。しかし、北米=自動車だけでなく、アジア=日用品の企業も実は好調だ。いわゆるディフェンシブ・グロースである。



業績が景気変動の影響を受けにくい食品、薬品、日用品などをディフェンシブ・セクターという。従来は典型的な内需型の産業だったが、これらの業種も少子高齢化で市場が先細る日本にとどまらず、発展を続けるアジアの内需を取り込む努力をしている。そうした企業は「外需のディフェンシブ」、成長する国(市場)でディフェンシブなビジネスを展開することから「ディフェンシブ・グロース」などと呼ばれる。ユニ・チャームや味の素、ピジョン、ローソンなどはその典型的な銘柄だ。

味の素は新興市場開拓のパイオニアである。同社は2009年創業100周年を迎えたが、海外進出の歴史は古く、台湾に特約店を設置した1910年までさかのぼる。「海外」進出というよりは、国内海外にとらわれず「売れるところに進出する」という意識が強く、それが当時は台湾だったのだ。



売れるところに進出するといっても、ただ行けばいいという話じゃない。味の素の社長、伊藤雅俊氏はこう語っている。
「海外で活躍している味の素の営業マンは、アジアだけでも3000人います。彼らの営業スタイルは極めて地道です。味の素の営業マンは現地に徹底的に入り込むため、市場のおばさんと話して食べてもらったり、村の集会場を借りて娯楽の会などを開催し、集まってくれた人々に試食をしてもらうといったキャラバンを何百回も繰り返します。完全にネクタイ不要の仕事です。」
「現地の人の話をじっくり聞いて、彼らの食文化とどのように組み合わせれば調味料が役に立つか、必死にレシピを考える。そうしなければ、料理の一素材である調味料を売ることはできません。調味料や加工食品を海外に浸透させるには、自分たちの食文化を相手に伝えるのではなく、相手の食文化を理解して、その中に我々が持つ素材をどのように組み合わせてもらえば、料理がより美味しくなるかを訴求しなければなりません。」

こういう気概をもったトップに率いられている組織は強い。精神論だけでなく、明確な経営目標を数値で掲げているところも評価できる。2020年度の目標として、営業利益率 10%、ROE 10%以上、時価総額 1.5兆円以上などだ。特に営業利益率 10%、ROE 10%以上と利益率へのこだわりがよい。ようやく市場全体のPBRが1.3倍程度に回復したが米国市場などに比べればまだバリュエーションの水準が低い。その理由は端的に言って、日本企業の利益率が低いからである。逆に言えば利益率の高い企業の株価は高評価を勝ち得て高くなる。

味の素は昨日まで7日続伸し、23年ぶりの高値をつけた。食品株は円安による原材料費上昇が重荷だが、味の素は海外売上比率が高く、円安は収益の押し上げ要因となる。

ユニ・チャームも海外展開で高成長を続ける「ディフェンシブ・グロース」の代表銘柄だ。今年はタイや中東の一部に政情不安がみられたが、日用必需品であるユニ・チャームの売り上げにはまったく影響がなかったという。まさに「ディフェンシブ」の本領発揮といったエピソードである。株価は今月に入って初の7000円の大台に乗せた。アジア主要国でトップシェアを獲得するなど国内外で紙おむつや生理用品の販売が伸びている。インドネシアルピアが対ドルで下落して原料費が上がったが、売り上げの伸びで吸収した。コスト増を増収で吸収して増益とは、もっとも力強いパターンの好業績である。過去5年でROEは常に2桁を維持。抜群のROEの高さと安定性を誇る企業だ。



稼げるところで稼ぐ。それが商売の基本である。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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