メンデルを超えるパラダイムシフト
「エピジェネティクス」誕生

 ほんの10年ほど前、研究者たちは、妊娠中の母親の食習慣が子どもの遺伝子を変化させ、その変化は子どもの生涯を通じて維持され、孫世代にまで受けつがれる可能性があることを発見した。

 その変化は、「エピジェネティクス」――後成説(エピジェネティス)+遺伝学(ジェネティクス)の意――と呼ばれるメカニズムによるもので、遺伝子は、文字通りスイッチがオンになったりオフになったりした。そして、従来の遺伝学の定説に反して、こうした遺伝子の変化は、次世代に受けつがれていった。この研究が扱った「母親」はラットだったが、近年、人間でも同様のことが起きていることが確認され、遺伝についての考え方に革命が起きたのだ。

 遺伝子と環境を共有しながら異なる性格に育ったラレとラダンの例は、遺伝に関するこれまでの理解に限界があることを示唆している。

 本連載では、遺伝に関するこの新たな見方を探求していこう。その過程では、自分が誰で、なぜこういう人間なのか、自分の行動や性格、病気をどう説明するか、といった疑問を問いなおすことになるだろう。また、この新たな知見ゆえに、長く科学的思考を支配してきたダーウィンの原理のいくつかを書きなおすことにもなるだろう。そしてわたしたちは、この知見を学ぶことにより、血のつながった人々が互いととてもよく似ていながら、それでも大きく違っているのはなぜか、という根本的な謎を解明していくことができるのだ。

(続く)

※本連載は、『双子の遺伝子』の一部を抜粋し、編集して構成しています。


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