いろんな会社を見てきたが、どんな会社にも、トップの「右腕」「懐刀」「知恵袋」「ブレーン」などと呼ばれる重要人物がいる。特に、急成長企業ではその役割が一人に集中することが多いため、「右腕」の能力の限界が企業全体の限界となり、その興亡まで左右してしまうケースが少なくない。みんながみんな軍師・黒田官兵衛のように優秀な参謀ならば問題ないのだが、そううまくはいかないものだ。私が見たある急成長企業の右腕=“官兵衛さん”にも、やはり問題があった。

超高学歴でいい人だけど失敗ばかり
“官兵衛さん”には何が足りなかったか

 “官兵衛さん”は、経営者から直々にスカウトされてその会社にやって来た人で、経営企画の仕事をしていた。“企画”といってもあまりクリエイティブな仕事ではなく、官兵衛さんの得意分野は予算策定や予実管理、財務計画立案など。その後、経理システムを担当したことからIT方面にも詳しくなり、経営者の絶大な支持を得て、経営企画室長兼秘書室長的なポジションに就いた。その頃には、経営者は分野に関係なく何でも官兵衛さんに相談するようになる。やがて経営者は新規事業に注力することになり、既存事業はほぼ官兵衛さんに任せきり。会社の情報はすべて官兵衛さんを通して回るようになっていた。

 このように言うと、官兵衛さんのことを「さして能力はないのに社長に取り入って権力を手にしたイヤな奴」「他の社員を蹴落としてでも自らの出世を目論む腹黒い人物なのだろう」と想像する人もいるかもしれない。しかし、事実は真逆である。官兵衛さんはとても真面目で勉強家ないい人で、腹の中は真っ白。事実、彼の得意としていた分野においては、極めて高い能力があった。

 もしかしたら、トップ直々のスカウトということで「ほかの社員よりも努力しなければ」というプレッシャーもあったのかもしれない。経営者から意見を求められれば、市場分析や販売促進、営業、製造……と、何でもかんでも教科書とにらめっこをして、専門外の分野でも期待に応えようとした。また、官兵衛さんは最高学府のご出身で非常に頭も切れ、まわりの人を説得できる程度の知識はすぐに身につけることができたのである。