もしかしたら、メディアと大衆の捉え方は、大きく乖離し始めているのかもしれない。日米のメディアは、GM(General Motors)の破綻を悲劇として捉えるが、情報を織り込み済みの大衆にその悲壮感はない。むしろ、破産法適用申請の1週間ほど前に米インディアナで開かれた自動車レース「インディ500」におけるGMの演出と観衆の熱狂は、新生「Government Motors」への期待を示していた。(ジャーナリスト 桃田健史)

GM本社ビル
創業101年目に経営破綻したGM。ミシガン州デトロイトにある繁栄の象徴たる本社ビルも売却が検討されている。Photo (c) AP Images

 2009年6月1日(月)。筆者は同日午後に米テキサス州ダラスで別件の取材があった。そのためダラスからは出られず、午前中は自宅内に2台のTVモニターと2台のラップトップコンピュータを置き、「GM破綻」関連の情報収集を行った。

 同日、東部時間午前9時、米国内の各種TVニュース番組でのトップニュースは、「GM破綻」ではなく「ブラジル・リオデジャネイロ発パリ行き、エアフランス機・消息不明・速報」だった。

 「GM破綻」については、先週の時点で「6月1日朝、ニューヨーク市の破産裁判所に、米連邦破産法11条(通称チャプター11/日本の民事再生法に相当)を申請する」ことが報じられており、アメリカ一般国民のなかでは「織り込み済み」の情報であった。また、GMのメディア専用サイトにも同日朝、「米国財務省とカナダ政府と『NEW GM』についての再生計画合意」が発表された。

 米CNN・ヘッドラインニュースでは、2010年までに11箇所のGM工場が閉鎖(一部は現時点で決定保留)され、約2万人の従業員が解雇されると報じた。そのなかで、テネシー州スプリングヒルのGMサターン工場前から中継し「3000人の工場従業員が職を失う可能性が高い。1980年代からサターン創業と共に成長してきたこの街が壊滅しかねない」と報じた。

 同日東部時間正午前、ABC、NBCなど地上波TVでは「スペシャルレポート(特別番組)」として、午前11時55分からホワイトハウスでのオバマ大統領の「GM破綻」記者会見を中継した。オバマ大統領の会見は5分少々の短いものだった。記者からの質問の機会も与えられなかった。

  「NEW GMは、過去のGMとは違う。私はGMの再建に強い自信を持っている」(オバマ大統領コメントから筆者抜粋)

 続いて同午後12時16分、予定を1分遅れてニューヨークでGMのCEO、フリッツ・ヘンダーソン氏が記者会見を行った、地上派TV局での中継はなく、経済専門ニュースのBloombergが同会見を生中継した。ヘンダーソンCEOは、いつものように「かなりな早口で」コメントを述べた。だがそのほとんどは、同日朝に同社メディアサイトで公開されたステートメントをなぞったものだ。