町工場のエンジニア集団、大企業の商品企画チームなど、多様なプロジェクトを率いて革新的な製品を生み出し続けるプロダクトデザイナーの根津孝太。未来的なビジュアルで世界をあっといわせた電気バイク「zecOO(ゼクウ)」の生みの親である彼は「クリエイティブの原点は対話」と語る。

人との出会いで実現した
未来の電気バイク・ゼクウ

2011年に東京デザイナーズウイークで発表された電気バイク「zecOO(ゼクウ)」は、企業からのオーダーを受けて作ったものでなく、根津さん自身の自主プロジェクトから生み出された製品ですね。きっかけはどのようなものだったのでしょう。

ビジョンをモノで共有すれば<br />クリエイティブは加速するzecOO

根津 2005年ごろに、僕がCGで作った電気バイクのデザインがアイデアのルーツです。この頃から「実車にしたい」という思いはあったんですが、当時はトヨタを辞めたばかりで、実現する力もなかったし、仲間もいなかった。その後、トヨタ時代の知人に「面白い乗り物を作りたいなら、いい人がいるよ」と、千葉市のバイク店「オートスタッフ末広」の中村正樹さんを紹介していただきました。訪ねてみると「その前にやりたいことがあるんだよね」という話になり、中村さんが進めていた乗り物づくりを手伝うことになりました。それがリバース・トライク(前2輪、後ろ1輪の3輪自動車)の「ウロボロス」です。僕が訪ねた時は、もうフレームや内部構造はできていて、これからデザインを詰めていくというフェーズでした。このプロジェクトにデザイナーとして参加することになり、それから中村さんとはどんどん親密になりました。

そして、ウロボロスの完成後、満を持してゼクウの開発が始まったのですね。

根津 はい。でも最初、中村さんは電気バイクづくりにはそれほど乗り気じゃなかったんです。ところが、電気バイクのモーターに詳しい松田篤志さん(AM-creation)との出会いがあり、ヴェクトリックス社の電気スクーターに試乗させてもらったりしているうちに、中村さんも「面白いね」と盛り上がってきました。やはり人との出会いが大きかったですね。意図せず同じ匂いの人が集まってくるというか……。今思えば、いきなりゼクウを作らなかったのはよかったと思います。ウロボロスを一緒に作ったことで、オートスタッフ末広という会社のすごさがよく分かりましたから。結果的に、ウロボロスのフレーム構成の独創性、小さな町工場で正確に物を作るための工夫などをゼクウに活かすことができました。