まずまずの営業成績を達成しスキルに自信を持っていた営業マンが、転職したとたん成績低迷に陥った。業界が変われば、営業戦術も異なるのか――

 顧客管理・営業支援ツール(CRM/SFA)のリーディングカンパニーであるセールスフォース・ドットコムに勤める寺本氏は転職後に営業成績不振に陥った。そこで自身の営業を根本から見直し、トップ営業マンとして生まれ変わった。現在は、12名の部下を持つ営業マネジャーとして活躍する寺本氏のコメントからトップ営業となった要因と営業管理職としての心得を探る。

「売り切る営業マン」のロジックから、
自分のスタイルを構築する

寺本裕一氏
セールスフォース・ドットコム
コマーシャル営業本部 マネージャー

 自分でもビックリするほどまったく売れなかった時代を振り返り、「何とかなるだろうと思っていた自分の仕事観の甘さを痛感した」という。

 当然、「このままではマズイ」「今までのやり方ではダメだ」と考えた。ところが、会社に研修をお願いするわけにもいかないし、いったいどうすればいのか皆目わからない。

 悩みに悩んだ末、一つの結論に達した。 それは、「先人に学べ」。つまり、自社ならでは売り方とは何か、 ということだ。

 幸い転職先では優れた「プラットフォーム」が機能していた。寺本氏は、成功事例はもちろん失敗事例をも師と仰ぎ、結果を出すための「営業の型」を模倣した。それが何をもたらすか。

 「売り切る」までの ロジックの習得である。気が付けば、営業活動の漏れの発見などは朝飯前。初見で成約の確度がわかるようになるなど、活動そのものに無駄がなくなったのである。

 転職して10カ月経った頃から優秀な営業マンの営業手法を徹底的に研究し、ついに成功する法則を自分のものにした寺本氏にインタビューを行った。

 ――まもなく営業15年になるそうですが、寺本さんの営業経験を簡単に振り返っていただけますか。

社会人になった2000年以来、ずっとIT 業界で営業の仕事を続けてきました。最初に入社したのは、大手システムインテグレーターです。主に携わっていたのは、自社ERP パッケージの販売で、従業員数百人から数千人規模の企業を対象に数千万円から数億円の商品を売る仕事でした。結構売っていたつもりですし、営業としてのスキルにもそれなりに自信を持っていました。

 ただ、仕事に対する満足度という点では疑問がありました。顧客から感謝されることもあまりなく、今にして思えば、あらゆる面でロイヤルティに欠けている状態です。内面的にブレークスルーしたいという葛藤があり、そんな時に縁あってセールスフォース・ドットコムへの転職を決めました。入社は2011年2月です。

――入社後の業務の中身を教えてください。

 主に都内の企業を対象に、当社のクラウドサービスを販売する仕事です。ERPとクラウドの違いはあるにせよ、転職直後は「何とかなるだろう」と思っていたのです。ところが、まったく売れない。自分でもビックリするほどで、それまでの楽観的な仕事観は粉々になりました。

 当然、このままではマズイと思います。今までのやり方ではダメだ。会社に研修をお願いするわけにもいかない。いったいどうすればいのか。

 そこで考えたのが、セールスフォース・ドットコムならでは売り方とは何か、ということです。転職して10カ月経った頃だったでしょうか。まず、優秀な営業マンの営業手法を徹底的に研究しました。それこそニーズの拾い方やアポ取り、顧客との対話や提案の仕方からクロージングまで。

 弊社では上司への報告などでSalesforceを使いますので、営業はみな日常的にこれに触れます。ですが当時の私は、使いこなすというレベルではありませんでした。

 Salesforce上には、社内の営業チームの活動が詳細に残っています。自分たちのチーム、隣のチームの営業担当者、その上司のコメントなどを自由に閲覧できるのです。これが宝の山だと気づきさえすれば、「どうすれば売れるか」を考えながら読み込めばよい。おのずと成功する法則が見えてきました。

 もちろん、売り方には個性があり、それぞれのキャラクターに依存する部分やクセがあります。「これはマネしよう」とか「これは少し改良して取り入れよう」、「ここは、自分のやり方のほうがいい」などと検討しながら、少しずつ自分のスタイルをつくっていきました。