人は商品や恋人を選ぶとき、「どんな商品か」「どんな人か」ではなく、その商品や恋人を手に入れることによって、「幸せになれる」「楽しくなれる」「他人に誇れる」など、自分がどんな感情を得られるかを無意識のうちに重視している。
見方を変えると、「この商品にはこんな成分が入っています」「私はあれもこれもできる魅力的な人間です」と、「何を(=商品・自分自身)」を売り込むだけでは不十分であり、その商品なり恋人を選んだほうがいいと感情を納得させる「理由(なぜ)」を用意してあげることが重要な意味を持つ。
こうした心理を利用し、特定の商品なり恋人を選ぶべきと納得させる「理由づけ」を行うことで、相手を誘導するテクニックを紹介する。

「快」を与えてくれた人には「快」を返そうとする

 ずっと友達だと思っていたのに、ふと目があった瞬間にドキドキしたり、隣に座っただけで急に相手が気になり出したりすると、「もしかして、これって恋?」と思うかもしれませんが、実はその恋心、「錯覚」かもしれません。

 カナダの心理学者によって明らかにされた「吊り橋理論」は、揺れる吊り橋を渡ったときに生まれるドキドキ感を、一緒に吊り橋を渡った相手へのドキドキ感だと錯覚し、恋愛感情だと思い込んでしまう心理法則。ジェットコースターやスポーツ観戦など、スリリングあるいはエキサイティングな体験を共有した相手に、恋愛感情を抱きやすくなるというものです。

 脳には「快応答」という働きがあり、「快」を与えてくれた人に対し、脳は「快」で応答しようとします。つまり、ドキドキしているのは、ジェットコースターに乗っているせいではなく、一緒にいるあなたのおかげだと思い、そのドキドキを相手に返そうとするのです。

 これを私たちの仕事や恋愛に置き換えると、相手の行動をコントロールすることが可能になります。

 たとえば、新入社員は最初のうちは資料作成やデータの打ち込みなど、簡単な仕事しか任されないのが一般的です。そのため、「もっと仕事らしい仕事がしたい」と不満を募らせることが少なくありません。

 そこで、上司が「いつも資料作成ありがとう。単純作業に思える仕事だけど、将来、自分がプレゼンすることを考えて取り組めば、自分自身の成長にもつながるよ」と、仕事に意味づけをしてあげると、「確かにそうだ」と納得し、地味な仕事に対してもモチベーションを上げてもらうことができます。