採用や育成を中心とする人事部門の業務は、営業部門などとは違い、定量的な評価が難しいだけに、担当者の試行錯誤は終わりのないものに感じがちです。
サイバーエージェント取締役の曽山哲人氏は、会社が急拡大する中で、さまざまな人事施策をリードし、挑戦的な企業風土をつくり上げてきました。
人事部門で働くみなさまからの疑問や悩みに、シャープに答えていただきます。

【質問】
当社はここ数年で社員数が100人前後から500人超規模に増えました。少人数だったころは経営陣が何に課題を感じているのか、現場の社員が日々の仕事でどんな悩みを抱えているのかが、あまり工夫をしなくても、自然とお互いかなり把握できていました。しかし、300人を超えたあたりから現場と経営層の意思疎通の難易度が上がっているように感じます。
以前と比べると経営陣の考え(どのような意図や理由でその制度や施策を実施するのか)が現場に浸透しづらくなっていたり、
逆に現場の声が経営陣に届きにくくなるケースが増えているので、現在は日々の業務で接点を作る機会を増やしたり、発信するメッセージをシンプルにしたり、など試みています。
社員数が増えた際に、少人数規模で会社を運営していた時のような意思疎通の浸透度を実現するうえで、注視すべきポイント、あるいは試してみるといい施策はありますか?
サイバーエージェントでも成長の過程で過去にそのようなステージがあったのかな、と思いますので、曽山さんのご意見頂戴できれば幸いです!

                                                                (東京都 М・Hさん)

ベンチャーを襲う
風土劣化のリスク

 こんにちは!曽山です。ご質問ありがとうございます。

 早速ですが、本題のご質問に移りたいと思います。

 人数急増に伴う組織の変化でもっとも大きいのは、それまでの良さが弱まり風土が悪くなっていくことです。私たちはこの症状を「風土劣化」と呼んでいます。

 この風土劣化は目に見える形で組織の問題(社員の不和、退職率の向上、忠誠心の低下)などにつながります。成長がとまったベンチャーを見るとたいていこの壁にぶつかったままの状態で手を打てず、結果的に組織がスケールできないという症状でほかの企業において行かれるということになるので、ここに立ち向かっていらっしゃる点でとても素晴らしいです。

 いくつかの考え方をご提示しますので、見ていただいた上でもし疑問があればまた投げていただければと思います。

 急成長組織の場合、「メッセージは急速に薄まるもの」と認めることが大事です。

 今回のように100人から500人に急増するときにおこるのは「古き良き文化を知らない人が過半数になる」ということです。

 創業時に近い100人の時と、それ以外の400人は全く違う人々である。人種が違うと思ってもよいくらいです。

 新しく入ってきた方々はその古き良き文化や感動は感じてない人が多いため何かメッセージを発しても「すぐに薄まってしまう」のです。

 たとえ言葉をシンプルにしても、その言葉に共感している人が多くないと伝えていくのはとても難しいことです。

 急拡大のときはつい創業時やそれまでよかった風土をそのまま伝えようとしてしまいますが違う人々だからと認めたうえで切り分けてアプローチしたほうがほうが、いろいろやりやすくなります。

 無理に今までの良かったことをどうすれば伝わるかということを考えるのは素直にあきらめて、新しい組織を作っていくつもりで行動する。これにより前例にとらわれずに新しいイノベーションのきっかけを持つことができるようになります。

 さて、今回のご相談を踏まえて、「私が同じ立場ならこうする」ということをいくつか整理してみました。