先進諸国の生活困窮者支援では、まず住宅を、それも一定の広さ・設備・プライバシーの確保された住宅を提供する「ハウジング・ファースト」が主流になりつつある。

今回は、「ハウジング・ファースト」の実践の場として設立された、中野区の小さな個室シェルターを紹介する。どのように運営され、利用者の声はどのようなものなのだろうか?

「もやい」の稲葉剛氏が設立した
定員7名の小さな個室シェルター

生活困窮者の自立にはまず“住まい”が必要?<br />定員7名の個室シェルター「あわやハウス」の試み稲葉剛(いなばつよし)
一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事、認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人、生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より東京・新宿を中心に路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立し、幅広い生活困窮者への相談・支援活動に取り組む。 『生活保護から考える』(岩波新書)、『ハウジングプア』(山吹書店)、『貧困待ったなし―とっちらかりの10年間』(共著、岩波書店)等、著書多数。

 2015年7月下旬、東京都中野区で個室シェルター「あわやハウス」が運営開始となった。「あわや」にはいくつかの意味がかけられており、その一つは緊急時の「あわや!」である。設立したのは、路上生活者を含む生活困窮者を支援する活動を長年継続してきた、社会運動家の稲葉剛氏だ。

「あわやハウス」は、もともと賃貸アパートとして使用されていたビルの1フロアを改装して作られた。2Kが4戸、1Kが1戸という構成だ。現在は、2Kの部屋3戸と1Kの1戸が居室となっている。

 2Kの3戸では、2つの居室に鍵がかけられるようになっている。これらの3戸では台所・浴室・トイレは共同だが、居室のプライバシーは守られる。残る2Kの1戸は、会議室などの共用スペースだ。また、夜間は管理人もいる。管理人は、昼間は別の職場で働いているが、夜間は「あわやハウス」に常駐している。

 家賃は、利用者の収入に応じて設定されている。緊急入所の場合は無料、就労している場合は3万円程度、生活保護利用者ならば住宅扶助の上限額であるということだ。

 この他に、生活支援を行うアルバイトのスタッフもいる。彼らが週に2回、週あたり12時間程度の生活支援を提供するのに加え、稲葉氏や他のメンバーもボランティアで生活支援をおこなっている。

「もう少し、お金をかけられれば、という思いはあります」(稲葉氏)

 10月からは「あわやハウス」の近隣に、借り上げアパートを1戸、運用開始する。

「あわやハウス」と借り上げアパートは、所有者の好意で廉価に提供されている。改装費は所有者が負担してくれたが、寝具・家具・家電製品・カーテンなどの購入には、合計で百数十万円が必要だった。これらの費用は、クラウドファンディングと2013年の稲葉氏の著書『生活保護から考える』(岩波新書)の印税でまかなわれた。

 現在のところ、現在も稲葉氏が理事をつとめる「NPO自立生活サポートセンター・もやい」や、池袋を中心にホームレス支援活動を続ける「TENOHASI(てのはし)」、個人の支援活動家から紹介された入居者を受け入れている。

「でも、満室でお断りしなくてはならないことが多いです」(稲葉氏)

 7室のうち2室は、路上生活者に雑誌「ビッグイシュー」を販売する仕事を提供する「ビッグイシュー基金」との共同運営となっており、「ビッグイシュー」販売員が利用している。

 7月下旬に運用が開始されてからの約2ヵ月で、延べ10人が利用した。現在は5人が利用しているという。