今読みたい戦略書【第3位】
ゲイリー・ハメル『経営の未来』
目標自体を正しい形に変える「経営管理戦略」

古今東西3000年から厳選する、<br />今、日本人が読むべき「戦略書」ベスト10【前編】

 著者のゲイリー・ハメルは書籍『コアコンピタンス経営』でも有名ですが、本書はその著作から13年後の2007年に発売され、ハメルの13年間の研究成果が描かれています。

 近代的な経営管理の思想は、人間を管理することに成功しましたが、管理を成功させることで、組織の中にいる人間の創造性や自主性を奪っており、一つの成功でもう一つは仕方のないものと諦めてしまっている、とハメルは『経営の未来』で指摘しています。

「人間を標準やルールに従わせるが、膨大な創造力と自主性を無駄にする」
「業務に規律をもたらすが、組織の適応力を低下させる」

 一方を追求するなら、もう1つは諦めるしかない、というトレードオフの関係を、私たちは当たり前のこととして、甘んじて受け入れています。しかし、ハメルは継続的に優位性を発揮している企業は、このトレードオフに敢然と立ち向かい、それを超越することを目指していると、その強さの秘密を解明しています。

 グルメな消費者を虜にしているホール・フーズマーケット、防水素材ゴアテックスで有名なW・Lゴア&アソシエイツ社、グーグルなどは、従来の経営管理が捨ててしまった人間の可能性や創造性、自主性を最大限引き出すことを目標に、その目標を達成できるオリジナルの組織構造を目指してきたのです。

 ありきたりな組織構造、常識的な管理法をなんの疑問も持たずに採用している企業は、近代経営管理という常識を鵜呑みにしています。しかしそれは、自らが活用できたはずの社員の膨大な能力、ビジネスチャンスを生み出して掴む力、自ら意欲的に仕事に取組む情熱を、ことごとく奪っているかもしれないのです。

 名著『コアコンピタンス経営』から13年、経営戦略の世界的大家の一人であるゲイリー・ハメルは、『経営の未来』で私たちに常識を打ち破る戦略を垣間見せてくれます。