今読みたい戦略書【第5位】
A・ガワー、M・クスマノ『プラットフォーム・リーダーシップ』
目標自体を正しい形に変える「競争環境戦略」

古今東西3000年から厳選する、<br />今、日本人が読むべき「戦略書」ベスト10【後編】

プラットフォーム・リーダーシップ』の著者の一人、マイケル・クスマノは米MITの名誉教授でありソフトウェアの世界的権威です。プラットフォームがいかに「他社を競争させることで自社が利益を得るか」が描かれており、特に当初はIBMへの部品サプライヤーに過ぎなかったインテルが、どのようにしてプラットフォームを構築し、それによりパーソナル・コンピューター市場の爆発に乗じて王者になったかのを分析しています。

 企業は押しなべて競争を嫌うものです。それが他社から仕掛けられたものなら特にそうでしょう。ところが、競争から一歩抜け出して独自の地位を築くためには、むしろ他社が広く競争できる環境(プラットフォーム)を生み出すことがカギになると、本書は鋭い分析と提言を展開しています。

 インテルは優れた製品を創っていましたが、あくまでも「プラットフォームを形成するために」優れた製品を目指しており、単に優れた製品を創ることを目指していた企業とは、まったく別の構想を持って前に進んでいたのです。結果としてIBMはPC業界の巨人から、競争環境における1プレイヤーに過ぎない地位に転落し、最終的にはPC製造から撤退することになりました。

 日本企業はモノづくりでは素晴らしい技術を持ちながら、目標を新しい形に変更することができないことで、大きな閉塞感を抱いている可能性があります。プラットフォームを中心にして、各企業やプレイヤーを競争させること。それにより自社が利益を得る立場を生み出すという、新たな目標を設定する大切さを、この戦略は私たちに教えてくれるのです。