重視すべき2つ目の方向性
「新しい発想を身につけて、組織の行動様式を変えていく」

 これまで「目標を正しく変更するための戦略」をご紹介してきましたが、その次には行動様式を変えるための、新しい発想を身につけさせてくれる戦略をご紹介していきます。

 私たちはビジネスの目標を、特定の価値観に基づいて決めていると先にご説明しましたが、価値観の枠組みが古いと、組織が選ぶ行動の幅も常に同じものになります。結果として、企業も組織も私たちも、自らの行動範囲や行動様式に、明確な制限をしている状態となっています。人は意味がないと思い込んでいる行動は、しないものだからです。

 ところが、この「意味がないだろう」と断定していた行動が、実はまったく異なる価値の入り口だった場合どうなるか。古い価値観を持つ企業は、新たな価値観を持つ企業の「行動の意図」を見破ることができず、新しい局面において常に遅れをとることになります。

 この「価値観の古さから行動が遅れ、結果として新興企業に敗北する」姿は、現在の日本企業に決して少なくありません。どうすればその落とし穴を乗り越えられるのでしょうか。

今読みたい戦略書【第6位】
ヘンリー・ミンツバーグ他『戦略サファリ』『H・ミツバーグ経営論』
新しい発想を身につける「創発戦略」

古今東西3000年から厳選する、<br />今、日本人が読むべき「戦略書」ベスト10【後編】

 カナダのマギル大学経営大学院の教授であり、経営戦略におけるマイケル・ポーターの対極に位置する経営学者と言われています。彼は「戦略が予めすべて計画できることはない」と主張しています。

 どれほど緻密な計画であっても、初期には見通すことができない要素が存在するからです。過度に事前計画に依存せず「まず始めてから考えること」の大切さがわかります。

古今東西3000年から厳選する、<br />今、日本人が読むべき「戦略書」ベスト10【後編】


【ミンツバーグの創発的戦略】
「実現された戦略は最初から明確に意図したものではなく、行動の一つひとつが集積され、その都度学習する過程で戦略の一貫性やパターンが形成される」(書籍『戦略サファリ』)

 やや難しい言葉で書かれていますが、シンプルに考えるなら「まず行動してから学び、戦略は行動と体験から浮かび上がる」ことを意味しています。詳細まで計画書に落とし込むよりも、概要を元にまず行動し実際の体験から学んで戦略を導くべきなのです。

 海外進出を目指す企業が、日本国内で膨大なデータや机上の資料を集めるより、極めて小規模でも店舗を現地に出店して、現場の体験から学ぶという姿勢で取り組むほうが、結果的に早く正しい方向に修正ができるようにです。

 ただし、これはプランニングを否定しているのではなく、戦略策定がプランニングと体験の両方を軸として交互に進んでいくべきことを意味しています。行動するためには計画が必要であり、思考するためには行動によって体験を積むことが大切なのです。

 ミンツバーグの指摘は、計画や事前の見通しに過度にアタマが縛られることの愚かさを指摘しており、体験に飛び込むことから新たな戦略が発見されるという、私たちが忘れがちなことを教えてくれます。お薦めの書籍は『H・ミツバーグ経営論』『戦略サファリ』の2冊です。