今読みたい戦略書【第8位】
スティーブ・ヘッケル『適応力のマネジメント』
新しい発想を身につけるための「アダプティブ戦略」

古今東西3000年から厳選する、<br />今、日本人が読むべき「戦略書」ベスト10【後編】

 元IBMの戦略研究者だったスティーブ・ヘッケルが提唱した「センス&レスポンド」という概念があります。これは不確実な変化が連続する現代のビジネス環境で、計画的に作ってから売るという「メイク&セル」ではなく、目の前の消費者の要望を的確にとらえてそれに反応することが、これからの企業には求められるという提言です。

適応力のマネジメント』では、近年の企業がいかに変化の早さに翻弄されているかを語り、その変化に対して予め計画を立てるやり方よりも、自律性を与えることでまさに顧客の要望にリアルタイムで応える企業を目指すべきことを述べています。

 ヘッケルはこれを路線の決まったバスと、顧客の行きたいところに運んでいくタクシーの違いであると説明しています。バスは行き先が変われば選択肢から外れますが、タクシーは顧客の行き先が変わることに追従することができます。

 しかし、この「アダプティブ戦略」も誤解を招くところがあり、ビジネスにおいて予測をせず単なる反応だけを行うことだと考えると、具体化が難しくなります。

 実際には予め予測をしても、その予測が当たらない場合のリスクを最小限に抑える仕組みを備えていることが「適応力」だと言え、例えばコンビニのセブン-イレブンでは店舗のアルバイトが翌日の商品仕入れをある程度決定する権限を持ちますが、これは現場で売れ行きを実際に目にするアルバイトのほうが、予測と実際のズレを修正しやすい立場にいるからだと考えることができます。

 予測が当たるか当たらないかは、事前にはわかりません。しかし、そのリスクを最大限減らすことができるなら、逆に大胆な予測をすることが可能になります。

 これは例えば、特別色を何色もそろえてカタログに掲載しても、注文された瞬間に工場で生産する仕組みならば、在庫を持つリスクなく、多くの魅力的な色の製品を消費者に提示できるのと同じです。予測のリスクを減らすほど、企業は大胆な挑戦が可能になるのです。