世界170カ国以上に事業を展開するGEは、人材確保にどう取り組んでいるのか。特徴は、人材の獲得と育成の一体化だ。その取り組みは、アフリカでの大学のカリキュラム作成にまで及んでいる。GEの幹部育成担当副社長で、チーフ・ラーニング・オフィサーのクリシュナムーシーが語る。


 1990年代末、マッキンゼー・アンド・カンパニーのスティーブン・ハンキンが提唱した"war for talent"(人材獲得競争)という造語が大きな議論を呼んだ。この言葉は世間に浸透するにつれ(書籍『ウォー・フォー・タレント』でも詳述された)、迫り来る人材不足について企業に警鐘を鳴らすために使われるようになった。経営トップが注意を払うべき、経営戦略上の課題であるという主張だ。その後ドットコム・バブルの崩壊や景気後退といった大混乱を受け、この問題は後回しにされてきた。しかし、いまだに企業にとっての重要課題であることに変わりはない。

 人材獲得競争に関する主張は当初、人口動態の大きな変化(欧米における高齢化など)に関連して論じられていた。しかしいまではそれも、考慮すべき事柄の一部にすぎない。以下のような新たな現実をふまえる必要がある。

●多くの国々は外資系企業に対して、地域社会に利益をもたらすことを求めている。雇用は通貨と同じように扱われ、経済政策の立案者は外資参入による雇用の創出を当てにしている。

●20年ほど前までは、多くの外資系企業は現地での有能人材の獲得をめぐり優位な立場にあった。ところがいまでは、現地の一流新興企業との競争に直面している。これらの現地企業は地域固有の状況に合った人材戦略を展開できる。

●近年成長を遂げている地域の中には、駐在員の派遣が困難なところがある。アンゴラ、モザンビーク、モンゴル、ベトナムなどで人材が必要とされているが、これらの国々のインフラは、ロンドンやパリ、シンガポール、シドニーとは異なる。

●人材のスキルレベルに大きなばらつきがある。多国籍企業は欧米で訓練された人材を獲得することには慣れているが、いまでは教育レベルが一貫していない地域で人材を採用せねばならない。

 多くの企業と同様、GEもまさにこれらの課題に直面している。世界170カ国以上で、金融サービスからジェットエンジン製造までさまざまな事業を展開し、全従業員の60%以上がアメリカ国外で働いている。我々はそんな状況の下、地球上のあらゆる場所で人材をめぐって競争し成果を上げねばならない。多様な人材戦略が必要なのは明らかだ。

 アメリカや西ヨーロッパ市場における主な課題は、ベビーブーマー世代の退職が始まっても高い生産性を確実に維持するための、人材の補充と知識移転だ。そのためにGEでは、数々の取り組みを実施している。たとえば徒弟制度(アプレンティスシップ)がある。そして教育機関と提携し、学生の成績向上や、公立学校の生徒による上級学位の取得を支援している。また、退役軍人を雇用し訓練するためのプログラムや、新卒者向けに重要なリーダーシップ・スキルを教えるプログラムもある。