人は経験から学びます。

 社会人の成長は、その要因の70%が経験を通して実現すると言われます。OJTが重要なのは、そのためです。研修や自主的な読書などの学習も、もちろん成長にプラスになりますが、それ以上に仕事の経験がモノを言います。

 実は、さきほどの経験学習サイクルは、PDCAサイクルと対応しています。下図を見てください。PDCAは、目標に基づいて計画を立て(Plan)、それを実行し(Do)、その結果を評価(Check)することで、改善すべき点を見つけるという仕事の流れです。

 このとき、Doは「経験(業務)」、Checkは「内省」、Actionは「教訓」、Planは「適用・応用」と深く結びついているのがわかると思います。

適切な形でフィードバックし<br />部下に正しく振り返らせるPDCAサイクルと対応する経験学習サイクル

OJTに取り組むことは
自分のマネジメント能力も向上させる

 育て上手な上司・マネジャーを調査したところ、彼らはこのPDCAサイクルを回しながら、うまく部下の経験学習も回していることがわかりました。

 そこで「OJT完全マニュアル」を作成するにあたり、私たちはPDCAをさらに細分化し、各段階において、マネジャーがどのように部下を指導しているかについての現場の知恵を集めました。そうした知恵に、人材育成に関する先行研究の知見を組み合わせてでき上がったのが下図の枠組みです。

 細かいスキルは次回以降に紹介しますが、連載第1回目の今回は、全体のイメージを理解していただくために、ポイントのみ説明したいと思います。まずは、OJTのあり方についての全体像を理解してください。

適切な形でフィードバックし<br />部下に正しく振り返らせるOJT指導の枠組み

第1ステップ:OJTの土台づくり

 PDCAを回す前に大切なことは、OJTのための土台をつくることです。土台が揺らいでいると、単なる技術論に陥り、指導が空回りしてしまいます。

 まず、部下や後輩を教えることは、マネジャーのコア・スキルである育成力をアップさせることにつながることを意識しましょう。つまり、OJTに取り組むことは、部下や後輩のためだけでなく、自分のマネジメント能力も向上させるという点を理解することが大切です。

 次に重要なのは、部下の成長を信じ、その思いを伝えることです。「期待されている」と思うと、人間はがんばれます。その上で、何から何まで教え込むのではなく、部下に考える余地を与える「ガードレール型」の指導を行い、職場全体を巻き込んだ形の育成を心がけると、OJTのための環境が整います。