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山崎元のマネー経済の歩き方

年金運用資産としてのコモディティ(商品)

山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
【第36回】 2008年6月17日
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 年金基金業界の世界的なオピニオンリーダーであるカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)では、運用資産の8%に相当する170億ドルを資源・商品に投資しているという。また、米国の上院司法委員会の公聴会でのあるヘッジファンド業者の報告によると、今年の3月末時点で、年金基金や大学基金などの「長期運用の投資家」が商品指数を運用対象に組み込んでいるその残高が、2600億ドルに上るという(「日本経済新聞」5月25日付)。

 「資源・商品への投資」の形態は、商品価格を原資産とする先物・オプションなどでポジションを取ることを指すのかもしれないし、金鉱山会社の株式のような資源株に投資することなのかもしれないが、いずれも実質的には、商品相場を原資産とするデリバティブ(金融派生商品)でのリスク・テイクだ。これは、長期の運用にあって、どのような意味を持つか。

 考えられるひとつ目の意味は「インフレのヘッジ」だ。年金の場合、ライアビリティ(負債)である年金給付がインフレに連動する仕組みがあると、将来の物価上昇の可能性が問題となる。アセットクラス(資産分類)の一般論として、株式はインフレの前半の時期に強いし、短期のマネー商品の金利はインフレの後を追う。カルパースをはじめとする「長期運用の投資家」は、それ以上のインフレへのヘッジが必要だと感じているのだろうか。

 いずれにせよ、この種の投資家は、インフレヘッジを建前に商品市場に参加するので、その時点では一方的な買い方のはずだ。

 たとえば年金基金が、資産・負債双方のインフレ感応度を測って両者のミスマッチを調整するために商品のポジションを持ち、これに満足しているなら、それもひとつの考え方だ。しかし、その場合、ポジションを取る際にレバレッジをきかせることができるのだから、資産の8%も投入するのはムダだ。

 彼らは商品を、リスクもあるが継続的にプラスのリターンを生むような「投資」の対象だと誤解しているのではないだろうか。運用業者は、商品へのリスク・テイクをファンドのかたちに仕立てて売っているので、こうした勘違いが生まれる可能性はある。

 商品価格に関するポジションを買い持ちすることは、商品そのものを持つことと相当程度同等だが、これは「土地」や会社の「資本」といった、生産の手段として継続的に機能するものを所有するのとは異なる。商品それ自体は基本的に消費されるものだ。生産手段を保有する「投資」と異なり、時間の経過とともに生産の果実の分配が期待できるようなものではない。

 筆者は、「商品に投資する」という言葉づかい自体に、いくらか違和感がある。それが「投資」だと認めるとしても、株式投資と商品投資では、設備投資と在庫投資くらいの性質の違いがある。

 このように考えると、商品相場は、インフレの「ヘッジ」以外に、長期的な資産運用の対象になりうるものであるとは考えにくい。

 カルパースの運用方針は、それこそ「長期」に耐えうるものなのか。もしそうでないならば、「長期運用の投資家」と呼ばれている連中は、いずれ商品というアセットクラスへの投資に失望して、一転して商品相場への大量の売り圧力の供給者になる。

 最近幹部が相次いで辞任するなど、かのカルパースにも不穏な動きがあるようだ。自称・他称「長期運用の投資家」が、商品バブルを推進するのも困るし、さりとて急に「気づく」可能性も怖い。

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山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]

58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役。


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12社を渡り歩いた資産運用の現場に一貫して携わってきた視点から、「資産運用」の方法をどう考えるべきか懇切丁寧に説く。投資家にもわかりやすい投資の考え方を伝授。

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