全社的にIT化を進めたにもかかわらず、なぜ、仕事が増えるのか? 改善したはずなのに、なぜ、業務はますます複雑になるのか? ……部門間のエアポケットに問題は山積し、巡り巡って、いつも現場に問題が降りかかってくる。複雑さを増すこの環境では、旧来の経営のアプローチはもう、通用しないのではないか。新刊『組織が動くシンプルな6つの原則』(ダイヤモンド社)を著したボストン コンサルティング グループに聞いた。

 

いまだ20世紀のアプローチに縛られている

 経営論の世界では、20世紀前半に活躍した権威がいまも大きな影響をおよぼしている。米国の製鉄会社のエンジニアだったフレデリック・テイラーの著書、『科学的管理法の原理』が刊行されたのは100年以上も前のことだ。また、オーストラリア出身のハーバード大学教授、エルトン・メイヨーが職場における人間関係論という先駆的理論を提唱したのは80年以上も前である。しかし、いまだに経営幹部たちは経営課題に取り組む必要がある場合、テイラーの「ハード・アプローチ」、すなわち、新しい組織構造やプロセス、制度をつくって対応するやり方を踏襲する。たとえば、リスク・マネジメント・チ-ムやコンプライアンス部門を新設する、イノベーション責任者を新たに置く、といった具合に。また、従業員の士気を高めたり、従業員間の連携を向上させたりする必要があるときは、今でもメイヨーの「ソフト・アプローチ」、すなわち、社員旅行や懇親イベント、ランチタイムのヨガ・レッスンのような人間的側面からの取り組みを始める。これらのアプローチは20世紀前半には有効だった(これも疑問の余地があるが)としても、今日では意味をなさない。それどころか、こうしたアプローチを使い続けることで事態を悪化させている。

 今わたしたちが暮らしているのは、複雑性が増大する時代である。私たちの分析によれば、現在の企業は、「フォーチュン500社」のランキングがつくられた1955年に比べ6倍も複雑な競争環境で事業を営んでいる。この複雑な環境は、優良企業にとっては競争優位性を高めるチャンスとなる。しかし、時代遅れで効きめのない経営手法に依存する、あまりに多くの企業にとっては、克服できそうにない難題をもたらす。

 経営幹部たちは新たな課題に対応しようとして、そのたびに(テイラーが推奨したように)新しい組織構造やプロセス、制度を導入してきた。年々こうしたことが行われると、組織構造面の改変がどんどん増えていき、悪影響をもたらすようになる。私たちの推定によれば、このような変更の数は過去55年の間に35倍になっている。その結果、組織は非常に「繁雑」な状態になり、生産性や従業員の意欲・満足度が低下する。繁雑性の高さが上位20%に入る企業では、従業員は価値を生み出さない無駄な活動に多くの時間を費やしている(形式的な報告書の作成や、あまり意味のない社内ミーティングなど)。