先日、シティグループとウェルズ・ファーゴが公的資金の返済計画を発表したことにより、アメリカ金融大手6社すべてが、政府の支援を離脱する見通しとなった。アメリカの金融危機は、重要なターニング・ポイントを回ったことになる。

 昨年の今頃、アメリカ金融危機が一挙に拡大するなかで、「アメリカ型金融資本主義は終わった」ということが盛んに言われた。政府による金融機関への公的資金投入によって「アメリカは社会主義になった」という意見も聞かれた。公的資金完済は、こうした見方が正しくなかったことを意味するものだ。

強行された公的資金注入

 まず、公的資金に関するこれまでの経緯を振り返ってみよう。

 アメリカ財務省は、2008年10月から、金融安定化法に基づいて、7000億ドルの公的資金枠から公的資金を大手金融機関に注入した。このときの様子は、ジリアン・テットの著作『愚者の黄金』(平尾光司監訳、土方奈美訳、講談社、2009年10月)にビビッドに描かれている。

 10月13日に財務省に召集された大手9行のCEOは、「政府に自社株を譲渡する」という契約書を差し出され、署名を命じられた。TARP(不良資産救済プログラム)は、もともとは銀行の不良資産を買い取るためのものだった。ところが、この会議で銀行そのものを買い取るという方向に大転換したのだ。

 これに対して、ウェルズ・ファーゴのCEOは、「国の支援を必要としない」と主張した。バンク・オブ・アメリカのCEOも、「100億ドルの資本調達を終えたばかりなので、それ以上の資金は必要ない」と述べた。しかし、論議の末、結局、この会議は財務長官ヘンリー・ポールソンの勝利に終わった。これに保険会社のAIGも加えると、計7650億ドルの公的資金が金融機関に注入された。

 問題が一番深刻だったのは、シティグループだ。10月に250億ドルの公的資金注入を受けたが、11月下旬に200億ドルの追加資本注入を受け、さらに、3060億ドルの不良資産損失に対する一部肩代わりの支援を受けた。

 ところが、2009年1月に入り、株価が一時1ドル台に急落するなど経営不安が強まったため、アメリカ政府は追加支援に乗り出した。優先株のうち最大250億ドル相当を議決権のある普通株へ転換し、政府が約36%のシティ株を取得して、最大株主となった。こうして、事実上の「政府管理」「部分国有化」に踏み込んだわけだ。

公的資金の返済はメドがついた

 以上が09年初めまでの経緯だが、その後金融市場が回復したため、JPモルガン・チェースとゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーの3社は、09年6月に公的資金を全額返済した。ゴールドマン・サックスは、50億ドルの普通株を発行して公募増資を実施することで、政府から注入を受けた公的資金100億ドルを返済。モルガン・スタンレーは、普通株発行で22億ドルの資金を調達し、公的資金100億ドルを返済した。JPモルガン・チェースは、普通株発行で50億ドルの資金を調達し、公的資金250億ドルを返済した。

 その後、12月9日に、バンク・オブ・アメリカが公的資金450億ドルを完済した。返済原資は余剰資金と188億ドルの新株発行でまかなう。