2008年12月期に、9期ぶりの減収減益に転落したキヤノン。急成長していたときには見えなかった弱点が、あらわになった。果たして、キヤノンは高収益モデルの崩壊を止められるか? 同社の「凄み」と「死角」を分析した前回のレポートに続き、内田恒二社長が同社の新たな成長戦略について語る。(取材・文/『週刊ダイヤモンド』編集部 浅島亮子)

キヤノン 内田恒二社長
撮影/住友一俊

 私が社長に就任した3年前に、御手洗冨士夫会長からは、「私は人事と経理をきっちりやる。技術にかかわるところはすべて、見てほしい」と言われた。

 当時、技術分野における最大の課題は、5年後、10年後の事業を生むR&D(研究開発)の組織運営にあると思った。当時は、象牙の塔にこもりがちの研究者の仕事の成果を測定する明確な基準がなかった。

 そこで、共通のものさしを持たせた。論文を書いたか、研究成果として特許を取ったか、といった当たり前のことだ。

 とかく、技術者は「独自技術」という言葉を使いたがる。何が独自であり、世の中のニーズはどこまでついてきているのか、客観的な根拠も入れて経営陣に研究成果を報告するように命じた。

 一方で、経営者は、今ある研究開発分野のなかで、どこを伸ばして、どこを捨てるかという、会社の方向づけを決定する重大な任務を負っている。この判断は、かつてないほどに難しい。