本誌3月29日号で、元財務官の内海孚・日本格付研究所社長は、「米国とユーロ圏の協調介入が行なわれるときにきている」と語った。それはまさしく現実を見据えた発言だった。

 米証券大手のベア・スターンズが資金繰りに行き詰まった3月13日から2日後の15~16日、日米の財務省、欧州中央銀行(ECB)などの当局者は、“そのとき”に備えていた。

 一時1ユーロ=1.59ドルまでドルは下落し、1999年のユーロ導入以来の最安値を更新。相場次第では、各中央銀行がニューヨーク、ロンドンなどの市場で円やユーロを売って、ドルを買う構えだったのだ。

 しかし、16日、ベアはニューヨーク連銀の特別融資付きで、米銀行大手のJPモルガン・チェースに買収されるという「常識では考えられない荒業」(金融筋)によって救済され、2000年9月以来の日米欧の協調介入は幻に終わったのである。

 ECBと米連邦準備制度理事会(FRB)および財務省との、いわば大西洋を挟んでの連携は、06年9月の国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会前後、急速に深まったと見られる。

 ドル安の警戒域は、1ユーロ=1.55ドル。介入の際には、米国がユーロ売り・ドル買いに必要となるユーロ資金を、通貨スワップの仕組みを通じて提供することも確認ずみだった。

 今年6月1日に、FRBのベン・バーナンキ議長がドル安懸念を表明し、続く2日にヘンリー・ポールソン米財務長官が介入をも辞さない態度を示した翌3日に、ECBが1ヵ月後の政策決定会合での利上げを示唆した。これも連携の賜物であったと考えられる。

 ドル安の危機は遠ざかったところで、通貨当局者の視線は、一転、ユーロ安に向かい始めた。第2四半期のユーロ圏のGDP成長率はマイナスに転じ、経済悪化とともに、進行している。

 万が一、第2のベアがユーロ圏に登場した場合、「米国とは違って、ECBと各国中央銀行・財務省には距離がある。同様のスピーディな救済策を講じられるか疑問」(金融筋)だ。3月とは別のかたちでの協調介入が現実となる可能性もある。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 遠藤典子)