「資本家」と「労働者」を生み出した囲い込み運動

 重商主義が始まる少し前の12世紀頃から、イギリスは十字軍の遠征でアジアとの交流が生まれ、貨幣経済と貿易が盛んになり始めていた。

 その後、15~16世紀になると、貿易は本格化してきた。当時のイギリスにとっていちばんの売れ筋商品は、毛織物だった。しかし、イギリスは小さな島国だから、羊を飼うための土地が足りない。

 そこで何が起こったかというと、なんと地主(ジェントリー)が農民から強引に農地を没収し、そこを柵で囲い込んで中で羊を飼い始めた。これを「囲い込み運動」という。

 ひでえ、メチャクチャだイギリス人! 農民が気の毒すぎる。ある日突然畑に行ったら、自分の畑が柵で囲われて、中で羊がメエメエ鳴きながら作物を食い荒らしているんだぞ。そんなのありかよ。この惨状をトマス・モアは、著書『ユートピア』で「羊が人間を食う」と表現している。

 でも実は、このメチャクチャな囲い込み運動こそが、資本家と労働者誕生のきっかけとなった。つまり、土地を追われた農民たちは、もう自分の労働力を切り売りするしか生きる道がなくなって労働者に転化し、その労働者たちは毛織物工場での「工場制手工業」(マニュファクチュア)に吸収されていく。

 つまり囲い込み運動は、労働者階級を誕生させると同時に、工場という生産手段を所有する資本家階級も誕生させたんだ。この資本家と労働者が誕生する流れを「資本の本源的(原始的)蓄積」という。

 これでつくられた毛織物が、その後重商主義時代の、主要な輸出品目の一つとなる。さあ、これで資本主義の発展に必要な(1)と(2)は両方揃った。あとは、さらに飛躍するためには、工場制手工業の「手」の部分が、「機械」になってくれればいい。