未曽有の危機に病根は断ち切れず、国債ジャブジャブ状態

 バブル経済の崩壊──この未曽有の事態に対し、日本政府は「緊急経済対策」を実施すると発表した。これは、新規国債を発行して、これを財源に所得税減税と公共事業を行うという、不況時の最もオーソドックスな財政政策だ。今までに経験した普通の不況なら、この政策で徐々に景気は回復する。

 だが、政府の考えは甘かった。今の日本はバブル経済が崩壊したのだ。ならやるべきは、有効需要を創出するだけでなく、すべての病根である銀行や証券会社などの“金融業界”の大掃除、体質改善もやらねばならない。

 つまり、金をバラまいて国民の消費を多少刺激できたとしても、金融の要にいる銀行・証券がちゃんと機能していなければ、要所要所で金の流れが止まる。

 結局、この総合経済対策は、数回やったが効果がなかった。国民に残されたものは、相変わらず出口の見えない不景気と、赤字国債発行による、巨額の財政赤字だけだった。せっかく1989年の消費税3%の導入から発行せずにきていた赤字国債だったのに、僕の就活の年から、またジャブジャブと発行を始めたのだ。

銀行には担保があるのに、なぜ回収不能?

 バブル後の景気回復を大きく遅らせた原因の一つに、銀行の不良債権問題がある。不良債権とは「回収不能(あるいは困難)になった貸付金」のことだ。つまり、金を貸した相手が法律上の倒産整理の段階にある(=破綻先)、倒産はしていないが事実上経営破綻の状態にある(=実質破綻先)、今後破綻する可能性が高い(=破綻懸念先)、などへの貸付金ということ。

 見てわかる通り、どれも貸した相手がすでに死に体同然だから、そこから金を回収できないというのは理解できる。バブルが弾けて返済能力がなくなったんだから、これはもう仕方がない。

 ただ、ここで解せないのは、なぜそれだけで回収不能になるのかということだ。だって銀行は、カネを貸すときにキッチリ担保を取る。つまり「あんたに5000万円貸すけど、その代わりあんたの工場を担保に取るからな。これでアンタが倒産しようが死のうが、その工場を売っ払えば、私ら銀行は損しない」という契約で金を貸すわけだ。これなら銀行に「回収不能の貸付金」なんて、生まれるはずがない。

 でも実際には、銀行はバブル後、巨額の不良債権に苦しんだ。その理由は「過剰融資」のせいだ。バブルの頃、銀行で過剰融資が横行していた。つまりバブル期には、将来的な地価上昇を見越して、現在の担保価値以上に金を貸すやり方、ブローカーが銀行員とぐるになってニセの稟議書を書かせるやり方などが横行していた。

 でもこんなの、バブルが弾けて金を借りた社長が夜逃げでもしようものなら、銀行に残されるのは、貸した金よりはるかに価値の低いクズ不動産だけだ。しかも、今はバブルが弾けてその不動産の価値もマッハの勢いでダダ下がりしている。

 南青山の億ションの話では、「譲渡担保」なんていうやり方まであった。これは「今から買う10億円の億ションを担保に10億円借りる」というやり方だが、投機物件を中心に不動産価格が猛スピードで下落している時勢となっては、こんなバブルの見本みたいな物件に、担保価値などほぼないに等しい。

 そして銀行マンたちは、この不良債権問題から目を背けた。なぜなら、彼らの多くは大なり小なりバブル期にやましい融資を手がけたことがあるからだ。

 それが上司からの命令なのか、カネのためなのか、それともノルマに追われて魔が差したのかはわからない。でも、全行員がうっすら共犯関係を共有している状態では、銀行の自浄作用など期待できない。