利権の温床「住専」になんと公的資金を注入

 1995年、ついに住専が飛んだ。農協マネーをバックにつけ、資金面では問題ないかに見えた住専だったが、いかんせん銀行系の不動産バブルが完全に崩壊し、不動産投機自体が全体的に冷え込み、また顧客の多くが住専以外のバブル崩壊に巻き込まれて討ち死にしてしまったため、とうとう破綻したのだ。新規の客が激減し、なじみの客が不良債権化。これでは、いかに農協マネーという裏技使いの住専でも、ギブアップするほかない。

 そしてこの住専破綻、実はこの後、問題が大きくなる。なんと政府は、破綻した住専に対し、6850億円もの公的資金を注入することを決定したのだ。これには誰もが驚き、怒った。当たり前だ。公的資金を注入するということは、住専だけえこひいきして助けるということだ。

 どういうことだ政府! なんで俺らを見殺しにしておいて、住専だけ助けるんだよ。うちの会社だって倒産したんだから助けろよ。金融システムの信頼回復のために仕方ないとか言っているけど、住専なんてそもそもノンバンクじゃないか。なんでそんな銀行でもないところを助けるのに、俺らの税金を使うんだよ。こんなの全然納得いかないぞ。何かやましいことでもあるんじゃないのか?

 ……やましいこと、ありまくりだった。実は住専は、コテコテの“大蔵省の天下り機関”だったのだ。そもそも考えてみれば、住専には最初から怪しいことが多すぎた。まず住専は、多くの銀行の共同出資でつくられたが、なんでライバル行同士で共同出資をする必要があったのか。今でこそ当たり前に行われている銀行合併だが、この頃は他行との協力なんてありえなかったはずだ。

 それから社長。住専は細かく見ると8つの会社の総称だが、そのうち7社が破綻した。そして、その破綻した住専7社中、6社の社長が元大蔵官僚だった。

 それから不自然な規制。大蔵省は不動産融資総量規制を各銀行に通達したが、なぜか住専と農協系金融機関だけは対象外だった。

 さらには、大蔵省と農水省の密約。大蔵省は農水省との間で、住専に農協マネーを投じる代わりに、破綻時には農協マネーを優先的に救済する覚書を交わしている(これは1996年の「住専国会」で取り上げられ、大問題になった)。

 どうでしょう。これで大蔵官僚が「私たちと住専は関係ありません」なんて言ったら、霞ヶ関を出た瞬間、善良な納税者たちからタコ殴りだ。住専は大蔵官僚にキッチリ私物化されていた。つまり住専は、大蔵官僚が自らの利権のために支配下の銀行たちに「つくらせ」、その上で農水省や農協、自民党をも巻き込んだ“利権の温床”にしていたのだ。

 でも政府は、そんな国民の声をよそに、住専への公的資金注入を決定した。これを機に、日本では金融機関を公的資金で救済するという悪しき慣習が生まれたのだ。