――企業買収といえば、買い手は欧米のファンドや投資銀行だ、というイメージを覆したんですね。

真山 今では、中国の経済力は誰もが認めるところです。しかし、同作の構想を始めた2007年ごろは、それほどでもなかった。日本人にとって買収者とはすなわち欧米だった。でも、もうすぐ中国やインドが買収者になる時代が来るという警鐘を鳴らしたかったんです。

――中国取材を活発にしたと聞いていますが、その想定は取材によって強まりましたか?

真山 逆でした。「中国の投資家が、日本の巨大自動車メーカーを買収するというのは、ありえない。日本の反感を買うでしょう」という意見が主流でした。彼らのビジネスの最優先事項は、「良好なビジネスをして金儲けをする」ことだからです。したがって、日本に喧嘩を売るような買収はないだろうと。取材の大切さはここにあります。日本ではイメージが先行します。でも、実際に取材すると、それは偏った意見や誤解という場合が多い。

――本来、それは小説より記事やリポートとして伝えられるべきですね。

真山 もっとマスコミに頑張って欲しいと思います。私は「現場が全て」という発想には懐疑的ですが、やはり自分が足を運び、現地に立ち、関係者から直接話を聞くという姿勢は大切にしたいです。

 もうひとつ、『レッドゾーン』で重視したのは、中国人の欲望の源でした。冒頭のマカオのカジノの場面は、その答えです。(10/20公開の次回へ続く)