コーポレートガバナンスの授業が面白い。株主対経営者という観点で語られることの多いテーマであるが、そもそも「ガバナンス=まっとうな企業統治」という視点に立つと、株主以外にもガバナンスの関与者がたくさん存在することが見えてくる。

株主と経営者の利害は
一致していた投資銀行経営

 たとえば、金融不況の諸悪の根源であるように語られる投資銀行に関して、そのガバナンス上どこにどんな問題があったのかを考えてみると、それはいわゆる株主と経営者間の利害の不一致という典型的なガバナンス論とは違った側面が見えてくる。

 投資銀行の株価は金融不況が始まる少し前までは堅調に推移しており、リーマン・ブラザーズのCEOであったファルド氏は、2006年にはInstitutional Investors誌から最高のアメリカのCEOに選ばれたこともあった。投資銀行の経営スタイルに関して、株主は極めてハッピーであったのである。ここには一般的に言われる株主と経営者の間での利害不一致やガバナンス上の問題は見えない。

 今振り返ると、当時の状況下必要だったガバナンス上の施策はリスク管理、リスク資産の圧縮であったと思われるが、リスクを取れば儲かるという当時の状況下において、株主にそのモニタリングの役目を期待するのは無理だったであろう。むしろ株主からの強いプレッシャーによって投資銀行がより収益至上主義的な行動に走ったと考えるほうが自然である。

投資銀行のビジネスモデルは
なぜ変貌してしまったのか?

 投資銀行の役割とは、まず企業に対して、M&Aのアドバイザリー、最適資金調達手段の提供などを通じて企業価値向上のための施策を企業に提案し実行することである。そして、投資家に対しては、余裕資金の最適な運用機会の提供を行う。