「今の自分」を大切に
毎日を楽しむ家にする

 永江邸は塚本氏により「ガエハウス」と名付けられた。随所に工夫が施され、今ではアトリエ・ワンの代表作として、建築関係者の間ではつとに名高い作品となっている。

 この家が完成したころ、永江夫妻は趣味でお茶を習い始めた。

「ところが習っているうちに、今度は茶室が欲しくなってきたのです。ガエハウスは僕たち夫婦が食う、寝る、仕事をするという機能に集中したコンパクトな家。畳の部屋もありません。そこで人生を面白くするための買い物として、新たに京都に家を持とうと考えました」

 ここ数年、京都の中心地はセカンドハウスブームといってよいほど、首都圏など他エリアから家を求める人が増えている。永江夫妻は京都中心部の新築マンションを検討し、次に中古マンションに射程を広げ、最後に築100年の町家をリノベーションすることに落ち着いた。

京都のガエまちやは2階建て。1点ずつ吟味した家具に合わせ、落ち着いた木の空間が広がる。リビング(上)の左端のはしごは、茶室に上がるときに使用。ガラス面のテーブル(右下)は新たに特注。通りに面した格子(左下)がこの家の個性を際立たせる(画像提供/永江朗)

「戸建ては管理、メンテナンスなどリスクが大きいという心配はありましたが、しっかりと管理してくれる不動産屋さんに出会えて安心できました。京都の戸建ては、夏は暑いし、冬は寒い。それについては実際に住んでみたら、自然の移ろいに身を任せて、むしろ何もせずじっと過ごす時間を楽しむようになりました」

 仕事に追われる東京とは違う、時間の流れを手に入れたわけだ。そんな京都暮らしにふさわしいリノベーションは、建築家・河井敏明氏に依頼し、完成後に「ガエまちや」と名付けられた。

 東京の家とは、新幹線を使い2時間で行き来できる。京都御所に近い町家はロケーションも抜群。食べ歩きも満喫できる。

「欧米ではロケーションを重視して古い家に手を入れ、価値を高めて次の住まい手に渡す、という考え方が一般的。これからは日本でも増えるのでは」と永江さん。毎日を楽しみつつ、老後の資産の流動性も考えれば、家が建つ立地を吟味することも、重要な要素といえるだろう。