ピクサー・アニメーション・スタジオ――。 『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』など、次々と大ヒット映画を世に送り出してきた「世界最高峰のアニメ制作会社」である。その伝説的な会社で活躍した日本人がいる。堤大介さん、39歳。彼は、「ピクサーのために働くんじゃない」と語る。その真意は?(聞き手/ダイヤモンド社 田中 泰)

ピクサーでの仕事とは別に、
「サイドプロジェクト」で自分を磨く

 ピクサーのアートディレクターとして、『トイ・ストーリー3』や『モンスターズ・ユニバーシティ』などで活躍した堤大介さん。ピクサーの映画は一本あたり総製作費数百億円のビッグプロジェクトなだけに、強いプレッシャーを受ける仕事だ。しかも、限られた制作スケジュールのなかで、最高のクオリティを追求するため、激務を強いられる。

 しかし、堤さんは、その仕事の合間を縫って、プライベートな「サイドプロジェクト」をいくつも手掛けてきた。そのひとつが、「スケッチトラベル」というプロジェクトだ。

 ピクサー入社前の2006年に、フランス人イラストレーターであるジェラルド・ゲルレさんとともに立ち上げた国際的チャリティ・アートプロジェクトである。一冊のスケッチブックをオリンピックの聖火のように一人のアーティストから次のアーティストに手渡しながら、一人ずつ無報酬で絵を描き込んでいく。そして、完成品をオークションにかけ、その収益金でチャリティを行うという企画だった。

 参加したアーティストがすごい。フランスの世界的絵本作家であるレベッカ・ドートゥルメール氏、短編アニメ『木を植えた男』などで知られるアニメの巨匠フレデリック・バック氏、『スターウォーズ』のエリック・ティーメンス氏らのほか、日本からは松本大洋氏、寺田克也氏、そして宮崎駿氏など錚々たるアーティストが加わった。

なぜ、僕はピクサーを辞めたのか?<br />「最高の職場」から離れるたった一つの理由<br />【僕がピクサーで学んだこと(下)】スケッチトラベルの収益金で建てられたカンボジアの図書館で子どもたちとともに。最後列右が堤さん

 12ヵ国を旅し、総勢71人のアーティストが参加した「スケッチトラベル」は、4年半の歳月をかけて2011年に完成。ブリュッセルで行われたオークションで約800万円で落札された。また、日本ではアートブックとして出版されたほか、東京・京都で「スケッチトラベル展」も開催。それら収益金のすべてがNPO「ルーム・トゥ・リード」に寄付され、カンボジア、ベトナム、ネパール、スリランカの図書館建設や絵本出版に使われた。

関連リンク:「ほぼ日」で、糸井重里さんとスケッチトラベルについて語り合った対談