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アマデウスたち

大野和士
利己的なる個性と無縁の音楽への愛

週刊ダイヤモンド編集部
【第72回】 2009年4月3日
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大野和士
写真 加藤昌人

 稀代の音楽家は今、世界中の喝采を浴びている。名立たる欧州歌劇場の音楽監督を歴任し、今年9月にフランス国立リヨン歌劇場の首席指揮者に就任した。仏国立歌劇場の指揮者を日本人が務めるのは、歴史上はじめてのことである。

 なぜオペラがしっくりくるのか。「人間が文字や文法を知らない時代に、音楽はあった。歌である。感情のわき上がりに思わず声を出した。それは人間としての証明でもある。あるとき、声が物語、せりふとして具体的な意味を帯びたときに放出されるエネルギーに、心を鷲掴みされる経験をした。これは何か、突き詰めたいと思った」。

 しかし、指揮者は声を出すことも、楽器を奏でることもない、無音の表現者である。「あたかも指揮をされていないような印象を弾き手が抱いている状況をつくり出すことが指揮者の役割。あちらに行きましょうと弾き手一人ひとりを誘導し、それぞれが自らそこに向かった結果、みんな同じ場所に集まっていた。そのときはじめて伸びやかな音楽が生まれる」。

 では、誘導に徹する指揮者の個性とは何か。それは作曲家が書いた原典と対立するものか。「楽譜にアクセントの指示があれば、強調しない選択肢はない。なぜ強調するのかを読み解こうとする。そこまでは共通の土台だ。その上に感受性を介した個性が結果として表出する。だが、その土台ははるかに高い」。

 音楽への愛は利己的なる個性とは無縁である。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 遠藤典子)

大野和士(Kazushi Ono)●指揮者 1960年生まれ。東京藝術大学卒業。87年伊「トスカニーニ国際指揮者コンクール」優勝。90~96クロアチア、ザグレブ・フィル音楽監督。96~2002年独バーデン州立歌劇場音楽総監督。02~08年ベルギー王立歌劇場音楽監督。08年9月より仏国立リヨン歌劇場首席指揮者。紫綬褒章など受賞多数。

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