集団浅慮、過去への執着、確証バイアス、さらには血糖値の低下――意思決定能力を鈍らせる数々の罠から組織を救うには、意見の多様性が必要だ。そこで有効となるのが、リーダーや組織の判断に対して「異議を唱える責任者」の存在であるという。


 私たちは、自分と同じ考えを持っている人に好感を抱く。ある研究結果によれば、自分が信じていることを裏付けてくれるデータが提示されると、チョコレートを食べた時や恋に落ちた時と同様に、ドーパミンの分泌量が急激に増えるという。米シンクタンクのピュー・リサーチセンターの研究結果によれば、フェイスブックのユーザーの中には、政治的見解が異なる相手を友達リストから外したりブロックしたりする人がいる(英語報告書)。ツイッターで私たちは、自分とよく似たユーザーをフォローする。

 しかし、昨今の多くの研究が示しているのは、多種多様な意見、自分とは異なる意見をしっかり考慮することの重要性だ。なぜならこれが、私たちをよりバランスの取れた人間にするばかりか、より賢い意思決定者にしてくれるからだ。意見の相違には、大きな価値があるようだ。

 グループに異なる意見を率直に表明し合うよう強く働きかけると、メンバーはより多くの情報を共有するだけでなく、それらの情報をより秩序立てて認識し、偏見を抑えてバランスよく検討するようになる。意見や視点を異にする人どうしが交わると、重要な前提をより的確に問いただし、クリエイティブな選択肢を見つける力が向上する。グループの問題解決能力に関する複数の研究結果によれば、異なる意見が交わされたグループと、そうでないグループを比較した場合、「意見の一致」よりも「意見の相違」のほうが、正しい答えに到達するための前提条件になることがわかった(英語論文 )。

 しかし、自分とは相容れない意見を積極的に求め、奨励しているリーダーは、いったいどれほどいるだろうか? その数はあまりに少ない。

 アメリカの元大統領リンドン・ジョンソンは、意見の相違を好まなかったことで有名だ。現在の歴史学者の多くは、米軍がベトナムへの軍事介入を強めていった背景にはこの姿勢が大きく影響していたと考えている(英語論文)。また、ケネディ大統領の承認の下にCIAが支援したピッグス湾上陸作戦(1961年、ケネディ政権はキューバのカストロ政権の打倒を狙い、在米亡命キューバ人部隊をピッグス湾に上陸させたが撃退された)にも、集団浅慮(グループシンク)が強く作用していたとされる。

 経営破綻したリーマン・ブラザーズの元従業員は、「社内で反対意見を述べることはキャリアを断つ行為と考えられていた」と述べている(本誌2010年3月号「あえて闘うべき時 協調や譲歩は本当のチームワークではない」を参照)。イェール大学経済学部教授のロバート・シラーは金融危機の直前、株式市場と住宅市場でバブルが進行していると考えていたが、そのことを周囲に警告する自分の声は「控え目」であったという(英語記事)。その理由をシラー教授は次のように述べた。「コンセンサスからかけ離れた考えを持つ者は、自分が集団から疎外されるのではないかと恐れ、ひいては解雇の危険性さえ感じる」

 あなたの会社の会議室には、このような排他的な雰囲気が知らぬうちに漂っていないだろうか。それとも、さまざまに異なる意見、正反対の意見を聞きたいと、あなたは積極的に呼びかけているだろうか。私たちは、自分の考えや立場に対する異議を受け入れるだけの自信を持つ必要があるのだ。