自分を解放(リリース)
することの意味

 分かるような、分からないような……人間心理の奥深さを聞きながら、ふと、この空間が、悩み相談と解消の場にもなっているのでは、と思った。

「そうですね。悩みを打ち明けられることも多いです。ステータスの高い方(会社の重役)は、ご自分の家族関係や奥様以外の女性との恋愛事情を話したりしますね。私はほぼ聞き役に徹しますが、お客様が秘めた思いを話し、さらにチェンジ後の自分の見た目の変化に驚き、ストレス発散しているようです」

 ストレス解消……。つまり、お酒を飲んだり、カラオケをしたり、マッサージに行くような感覚で、サラリーマンや若者たちがこのサロンを利用し、昼夜問わずに「変身」しているのだ。

 いかつい男顔の自分が、妙齢の女性に変化したことのドキドキ感。

 あるいは、「チェンジ」しているさなかのワクワク感……。

 誰も知らない「自分」を鏡の中に発見したことで、自己と他者の境界を意識し、それが他者への理解や寛容を深め、生きることに前向きになっていく――というのは考え過ぎだろうか。

 池田さんが再び口を開く。

「自分以外の自分になる楽しさってありますよね? つかの間の生まれ変わりというか……ここはそんな非現実的な時間を提供する場所なので、『チェンジ』中のBGMもディズニー音楽やジブリ映画のものを選んでいます」

“リリジョ”となった編集長の原英次郎

 やがて、チェンジストが編集長の肩をやさしく叩き、メイクアイテムを片付け始めた。

「お待たせしました。『リリジョ』の完成です」

「リリジョ?」

「はい。女性になった男性をリリジョ、男性になった女性をリリメンと、私は呼んでいます。リリは『リリース』の意味で、日常のストレス解消や自分を束縛するものとの別れ、性別的義務からの解放の思いを込めています」

 リリジョとなった編集長。

 近眼なので、メイク途中の自分の姿は見えていなかったらしく、鏡に恐る恐る近づく。

「これがオレ? 別人じゃないですか。メイクの力は恐ろしい……というより、これってまさに職人芸ですよね」

 当の池田さんは、強くまっすぐな眼差しで、鮮やかに「チェンジ」した編集長を見つめていた。

(ダイヤモンド社出版編集部 福島宏之)


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