デジタルサイネージがもたらす
広告の優位性

液晶画面は色鮮やかで、コンテンツはデジタルサイネージ専用につくられる。海外からの観光客向けの情報発信にも適している。

「じつは名古屋駅の中央コンコースは、動線が太く、分散する通路がない特異なロケーション。そこに連続してモニターを設置したら、非常にインパクトが強くなるのではないか? そう考えて、デジタルサイネージの採用を決めたのです」と川合氏は説明する。

 デジタルサイネージとは、簡単にいうと、ディスプレイ画面に動画や静止画を放映する映像表示装置のこと。

ただし名古屋駅の場合、約175mに渡って25面が連続する連続・多面デジタルサイネージなので、人々はコンコースを歩きながら必ずそれを見ることになり、非常に視認性が高い媒体なのだ。

 広告は15秒単位で販売されており、全枠を購入すると、通行時間とほぼ同時間である2分30秒ロールで、ストーリー性あるコンテンツを放映することもできる。歩くスピードに合わせて、映像を時間差でずらしてゆく“モーショングラフィックスコンテンツ”という手法も可能だ。工夫によって、広告表現の幅が限りなく広がる魅力がある。

 とくに広告主に人気が高いのが、交通広告に特徴的な“場所の特定”を生かした、リーセンシー効果と呼ばれるもの。これは、直前に接触した広告が購買行動に影響を与える効果のことで、例えば化粧品などの広告をデジタルサイネージで表示すると、関心を持った人が、JRセントラルタワーズのタカシマヤの中にある化粧品売場や、駅構内のドラッグストアに直行して、購買する可能性が高くなるのだ。最近は駅周辺の消費が元気なだけに、リーセンシー効果を期待する広告出稿が増えているという。

 「現在は、Bluetoothを活用したO2O(Online to Offline)展開として、デジタルサイネージを見てアプリを立ち上げると、専用ホームページでクーポンや商品情報が表示されるなど、モバイルやスマホと連動させた情報配信を考えており、11月には実証実験を行って購買効果を測定する予定です。また音響透かし技術を活用した情報配信システムの展開など、新しいテクノロジーとは積極的に連携していきたいと思っています」と川合氏は抱負を語る。

 ちなみに名古屋駅のデジタルサイネージには、広告以外に緊急時の情報提供メディアとしての役割も持たせている。災害発生時や大規模な運転見合わせ時には、広告を中断して駅からの情報案内やNHK放送に切り替えられる緊急情報システムを導入しているのだ。

2027年のリニア開業に向けて
さらに変貌する

 名古屋駅のデジタルサイネージが始動したのは10月7日。開始以来広告主からの評判は上々で、契約の半分はこれまで出稿がなかった広告主からだという。デジタルサイネージという新しい広告媒体に関心が集っている証でもある。折しも10月上旬は台風が接近した時期に重なり、その際は広告から切り替えられて放映されたニュース映像や運行情報に見入る人々が多く、想定どおり緊急時に有効なことも実証された。

 現在、名古屋駅の桜通口に出ると、見上げるような高層のビル建設現場が幾つも目に入る。15年から17年にかけて、JPタワー名古屋、大名古屋ビルヂング、JRゲートタワーという大型の商業施設やオフィスが完成する予定なのだ。

 そして2027年のリニア開業に向けて、名駅大改造計画も構想されている。そこにはデジタルサイネージが活躍する場が数多くあるはずだ。名古屋から発信される新しい広告媒体のカタチ。モバイルとの連携による多言語展開にも適しているとあって、東京オリンピックを控えてインバウンドの集客を狙う国内各地から、熱い視線が注がれている。