相談主は、専門商社に勤める木村さん(仮名、36歳)。営業課長としても一定の評価を得たある日、突然、一通のメールが届いたそうです。差出人は、A専務の秘書。これまでほとんど接触したことのない人物でしたから、怪訝に思いながら開くと短いメッセージが記されていました。

「A専務を囲んで行う、飲み会に参加してください」

 参加してください? 半ば強制のような書き方に違和感を覚えたものの、むげに断るのもはばかられて、「喜んで参加します」と返信しました。

 飲み会当日──。
 会場に入るとビックリしました。そこには、さまざまな部署からエース級の人が何人も集められていました。そして、専務の隣の席に案内され、緊張しながら縮こまっていると、横に座っていた人事部長がビールを注ぎながら耳元でこう囁きました。

君もついに、A専務派になったのだね。おめでとう。困ったことがあったら、何でも言ってきてください」

 木村さんは、ここで初めて、専務の派閥に組み込まれかけていることに気づきました。専務からも、「君の活躍は聞いてるよ。よろしく頼むよ」などと何度も肩を叩かれたそうです。もはや、逃げることはできない雲行き……。あまりに唐突な展開に、脂汗が止まらなかったといいます。

 その日は、「派閥入り」を明言しないまま、なんとかやり過ごしたのですが、2ヵ月後に再びA専務の秘書からのメールが到着。このまま、“なし崩し的”に派閥に入っていいものかどうか……。そんな相談でした。

「パワー・バランス」を意識して、
派閥への加入を判断する

“なし崩し的”に派閥に入るのはダメ──。
 これが、私の第1のアドバイスです。繰り返しますが、どんなに健全な環境にあっても、派閥はインフォーマルな勢力争いの色彩をもちます。だから、あなたの社内のパワー・バランスにおける「立ち位置」を踏まえて、慎重に判断する必要があります。

 まず、認識しなければならないのは、すでにあなたは派閥的な「立ち位置」をもっているということです。会社には「営業畑」「経理畑」などの「畑」があります。そして、多くの場合、属する「畑」の上層部が、あなたの「支持者」(あなたを課長に推薦するなど)となっています。この「支持者」の人脈は、あなたの社内政治の基軸となるものです。ですから、「支持者」を無用に刺激するような勢力の派閥に入ることは、基本的には避けたほうがいいでしょう。

 木村さんのケースで考えてみましょう。木村さんは営業課長ですから、おそらく営業系の上層部が木村さんの「支持者」になっているはずです。そのとき、もしもA専務がポスト争いで、木村さんの「支持者」と対立的な関係にあればどうなるでしょうか? 間違いなく、木村さんの「支持者」はおもしろく思わないはずです。

 このような場合は、A専務の派閥からは一定の距離をとるほうが無難です。自分の第一の「支持者」を敵に回すようなことがあれば、木村さんの社内的な立場は脆弱になるからです。周りの人びとも、「お世話になってきた上司から、A専務に乗り換えるのか?」と木村さんに対する不信感をもつかもしれません。

 しかも、A専務にすれば、木村さんは「手ゴマ」のひとつです。いざとなれば、容易に切り捨てると考えておいたほうがいい。そのとき、木村さんは「行き場所」を失うおそれがあります。