「税務面では、法人税率やキャピタルゲイン課税の有無などを考慮した上で、直接の買収対象が持ち株会社の場合には、その所在地についての配慮も必要です。自社の持ち株会社が他国にある場合は、統合につき課税が発生するなど、習熟しておかねばならないことは山ほどあります」(高嶋健一パートナー)

KPMG税理士法人 パートナー
高嶋健一

 グローバルなM&Aをするには、海外の企業・事業のディール(売買)で豊富な経験を積んでいるアドバイザーを選ぶことが成功への条件となる。というのも、海外企業の買収ならではの問題が多々発生するからだ。

「現在のM&Aでは、表明保証と言って売買契約時に「一定の事実を保証」することが一般的ですが、会社の体質までを保証するものではありません。買収対象企業が現地の税務当局とどのようなやり取りをしてきたか、といったヒストリーも調べるべきです。オーナー一族の不明朗な関与などがある場合は要注意です」(高嶋氏)

 イン・ディールの投資判断にあたっては、ビジネス手法やIT面でも注意すべき点がある。

「市場競合はもちろん、物流やITといった買収後のオペレーションも精査しておくべきです。特に同じ業種の海外企業を買収する場合、『同業だから、分かっている』と、たかをくくりがちですが、仕事の進め方が大きく異なるケースも珍しくありません」(箕野博之パートナー)

M&Aの経験とスキルを
いかに引き継ぐか?

 KPMGグループではM&A後のポスト・ディールのあり方を想定して、コンサルティングしていることに特色がある。

「M&Aは買って終わりではありません。プレ・ディールの段階から統合のあり方に関する『仮説』をつくり、それをポスト・ディールの段階で検証すべきです。海外では、仮説の検証結果を『プレイブック』のような形でM&Aの度に文書に落とし込んでいる。こうした「仮設」設定と「検証」作業を繰り返すことで、統合実務を標準化、効率化でき、将来のM&Aに生きてきます」(中尾氏)

KPMGコンサルティング パートナー
箕野博之

 統合前後には、他にも考慮しておくべきポイントがある。

「Day1時には、お客様・従業員が混乱しない最低限の仕組みとし、次の段階の統合計画を策定します。例えば、買収先企業のシステムを活用するのか、あるいは、当面は両者の既存システムを併用し、IT投資やIT資産管理の仕組みは統合するのか、IT組織・要員はどうするかなど、統合計画を考えるべきです。Day1以降に考えるのでは遅く、プレの段階からの緻密な計画が、統合のシナジー実現につながります」(箕野氏)

 もはや企業のグローバル戦略にM&Aは不可欠だ。成長の手段、重要な選択肢として普段から意識しておく必要がある。