いよいよ11月10日から、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が中国北京で開催される。日中両国は最悪とまで言われる関係を改善するため、安倍晋三首相と習近平総書記の首脳会談開催を調整しているが、本稿執筆現在でも開催されるかは不透明だ。この機会を逃せば、今後、日中関係は改善のきっかけすら見出せなくなる危機的な状況に陥るという声も漏れる。両国間にある問題をどう乗り越え、関係改善へ進めばいいのか。朱建榮・東洋学園大学教授に話を伺った。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 片田江康男)

冷戦終結で問題が表面化
日中関係は倦怠期

両国の“余裕のなさ”が問題表面化の原因 <br />島には蓋、靖国は周恩来ロジックの認識を<br />——朱建榮・東洋学園大学教授インタビューしゅ・けんえい
東洋学園大学人文学部教授、学習院大学で政治学博士号を取得。専門分野は中国の政治外交史。1957年生まれ。中国上海市出身。華東師範大学卒業後に来日し、東京大学非常勤講師、東洋女子短期大学助教授を経て、現職。 主な著書に『毛沢東の朝鮮戦争――中国が鴨緑江を渡るまで』『江沢民の中国――内側から見た「ポスト鄧小平」時代』『胡錦濤対日戦略の本音――ナショナリ ズムの苦悩』『中国で尊敬される日本人たち:「井戸を掘った人」のことは忘れない』など。

――この2年間の日中関係は国交正常化以降、最悪の状態だと言われます。両国間にある主な問題は尖閣諸島(中国名:釣魚島)を巡る領土問題と、歴史認識問題の2つであると指摘されています。この2年間の両国関係をどう見ていますか。

 確かに首脳が一度も会っていないし、相互訪問をしていません。それに各レベルでの交流もストップしていて、島の問題によって緊張も高まりました。そういうことからすれば、1972年の国交正常化以来、最悪だということは言えます。

 2つの個別の問題は置いておいて、そもそも日中は国交正常化前まで、互いによく知らなかった。あったのは、相手に対する好奇心や憧れだった。戦争を経て、お互いに歩み寄ったわけですが、この期間は夫婦で言えば、恋愛期間と言えます。結婚まではお互いに良いところだけを見るもの、悪いところはある程度目を瞑るものです。

 日本は戦後、贖罪意識も強く持っていたし、中国は文化大革命の後、発展優先で日本から経済援助も欲しかった。それで国交正常化という結婚をしたわけだが、その後は本当に関係が親密化しました。日中間の経済貿易学は往復で3000億ドルを超えています。世界を見渡して、二国間で往復の貿易額が3000億ドルを超える関係というのは、4~5組くらいしかない。両国にとって非常に重要な貿易相手国となったのです。留学生などの人的交流も進みました。

 しかし、それまで相互理解がないぶん、結婚してからは驚きと戸惑いの連続でした。「そんなはずはない」「こんなはずじゃなかった」という話はたくさんありました。実際の結婚でも「寝ているときにこんなにいびきをかくの!?」と驚くなんていうことはあるでしょう(笑)。日中関係も国交正常化してしばらく経って、今は倦怠期なのかもしれません。

 これほど問題が大きくなってきた背景には、ひとつは冷戦の終結で、東アジア全体の関係性の変化が日中関係に大きく影響しています。冷戦中は米ソ対立のなかで、中国もソ連と対立する関係だった。日中においては、島の問題よりもソ連の脅威にどう対抗するかということが共通の課題だったのです。それに歴史問題よりも、今、目の前に進んでいる交流を優先しようということだった。

 日中間のさまざまな違いや今表面化している問題は、冷戦の米ソ対立のなかで埋もれていたものです。それが冷戦終結後、徐々に覆い隠されたものが表面化してきました。