化学業界は、ナフサ価格が一時、1キロリットル当たり9万3000円台(国産標準ナフサ換算)に達したことで、「通期の業績見直しが必要になるかもしれない」(化学メーカー関係者)事態となった。現在は原油価格の下落とともに、8万円台半ばまで下がりひと息ついているが、依然として高値水準にある。「再度上昇するのか、不透明感が増している」(化学メーカー関係者)と戦々恐々だ。

 各社はユーザーに対して、値上げ要請に加え、ナフサ価格に連動して製品価格を修正する“フォーミュラ取引”においても、価格見直し頻度を増やすよう交渉するなど、タイムリーに価格転嫁ができる体制づくりを急いでいる。

 それでも、ダメージは完全には回避できない。化学メーカーの今期予想の多くは、増収減益、よくても微増益である。

 だが、信越化学工業だけは、第1四半期は前年同期比で減収増益、同業他社と正反対の結果になった。減収の大きな要因となったのは三菱化学のエチレンプラント事故。原料不足で日本での塩化ビニルの生産が減った。

 そのアクシデント以外は「すべての事業が好調だった」(信越化学)。なかでも、米国景気の後退で懸念されていた米国子会社シンテックは、製品を輸出に振り向け、南米を中心に世界中に売りまくって、フル操業を維持した。

 北米事業の営業利益率は12%と高水準だ。秘密は原料にある。じつはシンテックが作る塩ビは石油由来ではなく、天然ガス由来の原料がベース。石油が上がれば製品価格が上がるが、天然ガス由来の原料価格は抑えられ、利幅が広がる構造になっている。

 さらに、新たに建設したシンテックの第3工場も商業生産を開始。金川千尋社長が「作ったものは全部売る」と宣言しているだけに、増収も加わって、信越化学のひとり勝ちはまだまだ続きそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 佐藤寛久)