紆余曲折をこわがらない

 本を読んで猛反省した。私は、この世界で最も有名な、偉大なる日本人シェフのことをちゃんと知らなかったことを。

 NOBUこと松久信幸氏については、ロサンゼルスにMatsuhisaというレストランを開き、ロバート・デ・ニーロとのパートナーシップのもと、全世界にレストランNOBUを展開してきた人だと、認識していた。2013年にはラスベガスにNOBU HOTELをオープンしていることも、もちろん知っていた。間違いなく、成功者であると言っていいだろう。

 しかし、その成功に至るまでの普通ではない、波瀾万丈の人生を知らなすぎた。成功してからも、全てが順風満帆というわけではなく、試行錯誤と紆余曲折の繰り返しだった。

 7歳の時に交通事故で父親が死亡、高校時代に無免許運転で大事故を起こし高校を中退、保護観察処分、寿司屋での修業時代の苦労、ペルーでの寿司屋体験、帰国してからの赤貧生活、アラスカで再チャレンジをすると店が全焼……。連戦連勝どころか、連戦連敗に近い状態だった。

 MatsuhisaやNOBUの前に苦労をしているという話はなんとなく知っていたが、ここまで波瀾万丈だったとは。

 しかし、神は乗り越えられない試練を用意しない。松久信幸氏は、無我夢中で当たり前のことを正直に一生懸命やってきただけだ。まさにそれが、「お客様の笑顔が僕のすべて!」ということなのだろう。その前に進む姿勢が実に気持ち良い本だった。