お金、地位の外発的動機付けは諸刃
ダークサイドを忘れるな

 できるマネジャーになれば、ビジネスパーソンとしての人生の在り方も変わる。そして、できるマネジャーにはさまざまな能力が要求される。前回まで、マネジメント力について語ってきたが、後進を育てるのもマネジャーの重要な使命だ。

 後進を育てるためにはまず、彼らのやる気を引き出すことが前提となる。つまり、やる気を引き出すための動機付けであるが、これは簡単ではない。一見簡単そうに見えるのが外発的動機付けといわれる方法論だ。仕事そのものの面白さや本人の心の内から湧き上がるやる気ではなく、外からの刺激によってやる気を引き出すという考え方で、代表的なものが報酬、あるいは地位などである。

 確かにお金は人を動かす。地位もそうだろう。しかし、外発的動機付けは諸刃の剣であるということをわかっておいたほうがいい。

 諸刃のうち、良いほうの刃は、非常に効きがいい。即効性がある。しかも万人に効く。お金がいらないという人はあまりいない。だから一部のリーダーは、部下のやる気をすぐにお金と地位で解決したがるのだが、諸刃には常に悪いほうの刃もある。

 即効性がある半面、すぐに効力が薄れる。特にお金に関しては一種の限界効用逓減の法則が働く。ある人が日当に1万円もらって、「やった!」と喜んだとしても、多分、3日後には、1日1万円もらうのが当たり前になってしまって、1ヵ月もすると、「1万1000円、よこせ」となってしまう。同じ仕事をこなして同じ見返りなのだから同じくらい嬉しいかというと、人間、そうはいかない。

 だから、お金だけでやる気をキープしよう、動機付けをし続けようとすると、どんどんと金額を上げていかないといけないことになる。

 地位も同じで、これも昇進の瞬間はすごく嬉しいかもしれないが、やっぱりすぐにそれが当たり前になってしまう。だからといって、地位というのは、こまめに上げるほどランクがあるわけではない。

 2番目の「万人に効く」にもダークサイドがある。万人に効くからこそ、人は、自分のもらったものと他人のもらったものを比較したがる。人間には自分の努力は大きめに見えるが、他人の努力は小さめに見えるという傾向がある。

 そのため、極論すれば「あいつはあの程度しか働いていないのにあんなにもらいやがって、俺はこんなに働いているのにこれしかもらえない」と皆が思うようになる。