日本の「世紀の大合併」が霞んだ
アルストムを巡る仁義なき規模追求の戦い

「One giant and others」

 これはドイツの官僚が発した一言だ。

 一方、日本の経産省の官僚はこう呟いた。

「これでは、我が国の世紀の合併が霞んで見える」

 ゼネラル・エレクトリック社(GE)とシーメンス・三菱重工連合による、アルストムのエネルギー部門の買収合戦は、記憶に新しい。

 GEの独り勝ちを何としても阻止したいドイツのシーメンスは、日本の三菱重工に声をかけた。日々、ライバルとして戦っている両社も、このときばかりは盟友となった。結果はGEに軍配が上がり、エネルギー部門だけで7兆円、ガスタービン単体でも3兆円という巨大企業が誕生した。

 このときドイツと日本の関係者が発したのが、冒頭のセリフである。

 このGEの大買収劇に先立つこと、わずか半年前。三菱重工業と日立製作所が、火力発電部門の合併を決めた。記者会見に臨んだ三菱重工の大宮社長は、「日本企業同士が国内外で消耗戦をするよりは、一緒に海外の競合と戦うことが重要だ」と語った。

 名門同士がプライドを捨て、志を持って世界へと歩み始めた歴史的一歩は、世紀の大合併と報じられた。新会社の売上高は約1.2兆円、世界の巨人であるGEやシーメンスの背中が見えた瞬間でもあった。

 しかし喜びも束の間、わずか半年後にはGEがアルストムのエネルギー部門買収を実現させて、再びその差は開いてしまった。日本企業の大決断さえ小さく感じられた「欧州夏の陣」だった。

 三菱重工の売上高は約3兆円。太平洋戦争中はかのゼロ戦を創り出し、日本最高の技術者集団として日本の産業界を牽引してきた企業だ。その企業がさも「負け組」のように捉えられてしまう「仁義なき規模追求の戦い」とも言える。