株式レポート
11月12日 18時0分
マネックス証券

Don't Be Naive 大人になろう - 広木隆「ストラテジーレポート」

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
(太宰治『走れメロス』)

「走れメロス」が大好きで、小学生のころ国語の教科書で読んで以来、これまで何回読み返したことかわからない。読むたびに目頭が熱くなる。

メロスに政治がわからないように、僕もまた政治がわからない。しかし、いくらなんだって、これはひどい。僕は激怒した。消費税を党利党略の道具に使って政権の基盤を固めようというのだ。仮に、結果として消費増税が先送りになるかもしれないが、それでは本末転倒も甚だしいというものだ。

今朝の主要新聞各紙は1面トップで衆院の年内解散総選挙の話題を伝えていた。一番、突っ込んだ記事は読売新聞で、自民、公明両党は衆院選の日程について、「12月2日公示・14日投開票」を想定し、選挙準備に入ったと書いている。日経新聞は、安倍首相が自民党幹部に「年内の衆院解散・総選挙は選択肢にある」と伝えたと報じている。

永田町に急きょ吹き始めた解散風。政府・与党には「増税を延期する場合は衆院を解散して国民に信を問う大義名分になる」との見方があるというが、理屈がむちゃくちゃである。こんなことでいちいち「解散して国民に信を問う」ていたら、いったい何回解散するつもりか。国会での審議など成り立たない。増税延期⇒信を問う⇒解散という順番ではなく、解散したいがために信を問う大義名分が欲しい、そのために増税延期というのは誰の目から見てもミエミエである。だから本末転倒だというのである。

僕の消費増税の判断とそれに係る市場の反応についての見方は、これまで毎週おこなっているオンラインセミナーなどで表明してきたが、メディアでは日経新聞編集委員の北沢千秋さんが先日の記事で取り上げてくれた。

<注目の消費税率の引き上げ問題は、17日の7〜9月期の国内総生産(GDP)1次速報で大まかな方向感を得て、12月1日の法人企業統計で設備投資の動向を織り込み、同8日のGDP2次速報を受けて安倍首相の最終判断につながるという流れ。広木氏は「GDPが市場予想の2%程度を上回れば引き上げ、2%を下回るようなら先送りになるのでは」と予想している。その際、株式市場の反応は先送りなら大歓迎、再増税実施なら急落という。>
(11月10日付け日経電子版<マネー底流潮流>「かんぬき掛かった株式相場 日銀支配力強まる」)

従来は、景気次第という当たり前の見方をしていた。7―9月期のGDPがまあまあ(予想の2%程度)となるか、あるいはそれに届かないかで対応が分かれるだろうと。GDPの良し悪し、増税判断の可否、組み合わせは全部で4通りしかない。そのうち、GDPがまあまあの数字で増税見送りも、GDPが悪いのに増税に踏み切ってしまうこともないだろうから、結局シナリオは景気の良し悪しで増税の可否が決まる2通りに絞られると思っていた。

ところが解散が前提ではシナリオが狂う。解散ありき、では増税は見送りしかない。増税を予定通り実施を決めて解散総選挙に打って出るほど ― つまり本当に国民に信を問うほど ― 自民党はうぶではない。それでは民主党との対立軸がなく、増税を決めた与党として負けにいくようなものだからである。

そうなると、従来はそれがキャスティング・ボートを握っていたはずのGDPは、もはやどうでもよくなってしまう。解散⇒増税見送り⇒景気の良し悪しという逆の順番でシナリオができてくる。GDPの捉え方が180度変わる可能性がある。つまり、以前はGDPがまあまあ良いというのは市場にとってのネガティブ材料だと思っていた。GDP ○ ⇒ 増税 ○の組み合わせだからだ。ところが、どっちに転んでも増税見送りなら、あり得ないとして排除したシナリオ、すなわちGDPがまあまあ良いのに増税見送りというシナリオもあり得るということだ。そんなことになったら、株は狂ったように上がるだろう。

株式市場は増税見送りを望んでいる。どうして、そんなことが言えるのか?昨日、今日の市場の反応を見れば明らかだろう。それでも根拠が希薄だと?では、日銀の追加緩和であれだけ株価があがった理由はなんだろうか?ただサプライズ(驚いた)というだけではない。目標達成のためには「なんでもやる」という黒田・日銀の強い意志を評価したのである。すなわち、デフレ脱却という、アベノミクスの大命題をもう一度、市場の目の前に提示してみせたからである。市場はデフレ脱却に全力で取り組む姿勢を評価したのである。
思い返してみよう。この相場の出発点がなんであったかを。われわれは、「長期低迷の元凶であったデフレから脱却し、強い日本経済を取り戻す」ことを掲げて登場したアベノミクスを大歓迎したのであった。だからこそ昨年、日経平均は5割を超す大幅上昇を演じる大相場となったのだ。ところが今年に入ってから、そのデフレ脱却が、経済再生が、どこかへいってしまった感があった。株価が上がらなかったのも無理はない。それが10月末に日銀の追加緩和があると株価は暴騰した。これ以上、はっきりしていることはない。株式市場は「デフレ脱却」というメッセージを大歓迎している。

シンプルな議論だが、増税というのはいつ何時も景気に下押し圧力をかけるものである。すなわちデフレ脱却に向かってなんでもやろうと努力することと正反対の政策である。株式市場が歓迎するわけがない。少し前には新聞などのメディアに「消費増税に関する市場関係者の考え方」というアンケート調査が載ったりしたが、大半が増税賛成であった。ここで注意したいのは、「市場関係者」は「市場」の声を代弁しているとは限らない。むしろ、まったくとんちんかんな声を発していることがこれで明らかになったというものだ。

増税見送りなら株式市場にはポジティブだ。それは、単に景気悪化が避けられるから、という目先の損得勘定からではない。経緯はともかく、結果として政権が正しい選択を行うことになるからだ。正しい選択とは消費増税を見送ることを指しているのではない。正しい選択とは、今のプライオリティ(優先順位)を明らかにすることである。

僕はずっと最初の段階から一貫して主張しているが、消費増税そのものに反対しているわけではない。社会保障費の増加に歯止めがかからない少子高齢化の日本にとって財政健全化は喫緊の課題である。ところが、この「喫緊の課題」というのは枕詞のようなもので、どれほど急を要するものなのか。消費税を8%から10%に上げるのを、1〜1年半先送ったところで、日本の財政が破たんするというものではあるまい。それよりもデフレ脱却というのは、まさに乾坤一擲、タイミングが勝負である。ここを逃しては、元も子も失いかねない。今はなにがなんでもデフレ脱却を優先させるタイミングである。

そのことを安倍首相は誰よりもわかっておいでなのではないか。日銀の黒田総裁もそうだろう。黒田総裁は、常々、政府には成長戦略(構造改革)をしっかり進めてもらい、財政再建を果たしてもらいたいと注文をつけている。金融政策だけに頼るには限界があり、財政規律が緩むと国債が売られ金利が上昇、日銀の政策が無に帰すからだ。だから、もちろん、消費税増税には前向きで先日のサプライズ緩和は増税への地ならし ― そう受け取ったひとは多かったのではないか。しかし、日銀の追加緩和で日銀が示したものはなんであったか?すでに述べた通り、それはデフレ脱却への強い意志である。今日本が取り組むべきトップ・プライオリティを正しく示したのである。であるならば、黒田総裁も口にこそ出さないが消費増税延期が正しい選択肢だとご理解されているのではないか。

消費税を政治の道具に使う永田町のやり方には憤懣を覚える。国民を愚弄していると思う。しかし、結果として正しい選択に向かおうとしていることは事実だ。この際、結果だけを評価しようではないか。案外、安倍首相は、「デフレ脱却、経済最優勢」という確固たる信念があり、消費税見送りで腹をくくっていたのではないか。ところが7-9月期のGDPがまあまあの数字だった場合、増税を見送る口実が無くなってしまう。であれば、政権与党内の解散を急ぎたい向きの勢力を利用して、解散するから増税見送りと ― くどいが本末転倒であるのは百も承知だ ― その流れに乗っかってしまえと、腹をくくったのではないか。そこまでの筋書きは考え過ぎだろうか。

いや、もちろん安倍首相の考えも当初から見送り一辺倒で固まっていたわけではないだろう(そして本当に見送りを決めているのかすら定かではないし、すべて僕の想像 ― 妄想?の域を出ない)。メロスやその友セリヌンティウスが、一瞬のこととはいえ諦めと疑いを感じたように。しかし、最後はハッピーエンドだ。

暴君ディオニスも最後にはこう言う。「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった」と。

消費増税の延期 ― 決して空虚な妄想ではないことを望む。そしてこの望みが叶いますように。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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