株式レポート
11月20日 18時0分
バックナンバー 著者・コラム紹介
マネックス証券

GDPサプライズはショックではない - 広木隆「ストラテジーレポート」

11月4日付けレポート「無常という事」は小林秀雄の有名な随筆のタイトルからとった。そのなかの「上手に思い出すことは難しい」という有名な一節を僕はよく引用する。

「またか」。今週月曜日、500円を超す下げとなった日経平均の急落を見て僕は呟いた。そして同じセリフを翌日にも吐いた。「無常という事」のレポートで「こんなに上げるなら、前の日にあんなに売るなよ」と書いたばかり。また同じ展開を見るとは。株は記憶のゲームとよく言われるが、東京市場の参加者はよほど記憶力が悪いのか、何度も同じ間違いを繰り返す。その理由のひとつは、「機械」による売買、もしくは「機械的な」売買が増えたことが挙げられるだろう。人間だって「上手に思い出すことは難しい」のだから、機械に「思い出せ」と言っても無理である。それでも最近は人工知能の研究が進み、自ら学習して様々なパターンを記憶するプログラムも開発されているというが、チェスや将棋で人間に勝てても株式相場ではまだまだであろう。

「そうは言っても月曜日の下げは仕方ないのではないか。なにしろ7-9月期のGDPがまさかのマイナス1.6%成長。名だたるエコノミストの予想が総外れとなるGDPショックだったのだから」 そのような反論があるかもしれない。確かにGDPがマイナス成長になるとはだれも思っていなかった。その意味では「サプライズ」であったのは確かだ。しかし、「ショック」ではない。株式市場は、そんなことで「ショック安」してはいけなかったのである。

過去にも書いてきたように、日本株式市場の値動きが荒く、上げでも下げでも一方通行相場になりやすい背景はいくつかある。特に最近の相場上昇は先物主導によるところが一段と顕著であった。それだけ短期筋中心の相場だったわけだから、月曜日のように「サプライズ」が出れば急落となるのも不思議ではない。さらに言えば、短期筋のなかにはコール・オプションを買って一段の上値に備える「買いヘッジ」をしていた向きもあるだろう。彼らにオプションを売り渡している業者は、そのポジションに対するヘッジを先物でおこなう。相場が急落してコール・オプションの価値がなくなれば、業者もヘッジを外さなければならない。こうして先物に大量の売りが出るということになる。

そのようにテクニカルな要因によって売られた分は仕方ないとしても、月曜日に株を売ったひとのなかにはGDPの数字が悪いこと、すなわち日本の景気が悪いことを悲観して株をぶん投げたひともいるのではないか。だとすれば、それは早計というものだ。なぜか?その理由をこれから述べる。いくつもあるが、いちばんはじめに挙げたい第一の理由は、日本の景気はそれほど悪くないということである。これは月曜日にGDPが発表された直後から、ロイターへのコメントでも毎週月曜日のお昼におこなっているオンライン・セミナーでも僕が述べたことだ。でもGDPは2四半期連続のマイナス成長。定義に従えば、リセッション(景気後退)ということになる。そんな状態だから消費税増税を延期したのではないか、と疑問におもわれるだろう。では、基礎的なことから述べていくがお付き合いください。

そもそもの話、GDP - 国内総生産とは何だろう。経済産業省のキッズページにある解説を引用する。

GDP(国内総生産)とは、日本の国内で、1年間に新しく生みだされた生産物やサービスの金額の総和のことです。GDPはその国の経済の力の目安によく用いられます。また、経済成長率はGDPが1年間でどのくらい伸びたかを表わすものです。経済が好調なときはGDPの成長率は高くなり、逆に不調なときは低くなります。
(経済産業省・キッズページ「GDPとは?」より)

いろいろな経済活動があって一面的に捉えられないので、これを三つにわけて考える。まず国内総生産というくらいだから生産の側がある。いろいろな企業がつくりだした生産物などだ。非製造業が提供するサービスの価値も生産に含まれるし、民間企業だけでなく政府・公的部門のサービスもこれに含まれる。次にそのつくりだしたものがどのように配分されたか ― 例えば労働の対価としてサラリーマンに給料として払われた分がいくらか、など ― 分配の面からも捉えられる。最後にそれらがどのように使われたのか、すなわち支出の面から見ることもできる。この三つの面からみたGDPは等しい。これを三面等価の原則という。
内閣府発表のサマリーや新聞などの報道で一般的なのは支出の側からの捉え方である。民間消費がいくら、設備投資がいくら、輸出がいくら、などというものだ。ざっくり言うと、日本のGDPは500兆円。そのうちの6割が民間の消費支出で約300兆円。簡単に言うなら、ひとびとがおカネを使えば(消費すれば)景気は良くなる。おカネを使わなければ景気は悪くなる。実に単純な話である。そこに設備投資が増えた/減ったとか、輸入が増えた/減ったとかが加わると、もっと景気がいいとか、悪いとかということになるわけである。

本来、在庫というものはGDPの主たる構成要素ではない。絶対額が大きくないということもあるし、その本来的な性質が純粋な「投資」とは言えない部分も少なからずあるからだ。「意図せざる在庫増」という言葉を聞いたことがあるだろう。企業が、将来の売れ行きを強気に読んで「意図して」在庫を積み増すということもあれば、予想外に販売が不振で売れ残ったために在庫が膨らんでしまうこともある。後者の場合、すなわち「意図せざる在庫増」の場合は明らかに景気がいいわけではないが、数字上はGDPを押し上げる要因となる。

反対に在庫が減る、というのはたまっていた在庫がはけた、在庫調整が進展した結果だと捉えることもできる。これは需要がそこそこあった、ということになる。

さきほど三面等価の原則ということを述べた。生産面、分配面、支出面、いずれから見てもGDPは同じということだったが、それはあくまで「原則」であって、現実の世の中、そんなにうまい具合に勘定が合うわけではない。三面等価の原則というのは、それが常に(恒に)成り立つように定義したから、そういうことになっているだけである。

GDPを Y、民間の消費を C、貯蓄を S、投資を I、政府支出を G、税金を T、輸出を EX、輸入を IM、そして経常収支を NXとすると、

Y = C + S + T (総供給:生産、分配面からみたGDP)

Y = C+ I + G + (EX-IM) (総需要:支出面からみたGDP)

これを整理すると、よく知られたISバランスと財政収支・経常収支の式となる。

S - I = (G-T) + NX

民間の貯蓄が投資を上回る分(貯蓄超過)が、政府部門の財政赤字を補って海外に流出している(海外部門の貯蓄超過=経常黒字)という図式だ。

また、このように変形することもできる。

S + T = I + G + NX

左辺は総貯蓄(総供給)、右辺は総投資(総需要)である。三面等価の原則によれば投資と貯蓄は恒に等しく、需要と供給は恒に一致する。しかし、それはそのような恒等式で定義したから、そうなるのであって、現実の世の中では貯蓄主体と投資主体は同じではない。貯蓄は主として家計部門だし、投資は企業が主体である。民間で売れ残ったものを政府や海外が必ず買ってくれるわけではないだろう。

ところがGDP統計では必ず三面等価の原則が成り立っている。それを可能にしているのが在庫品増加なのである。いわば、在庫品増加というのは実体経済における需要と供給の不一致を統計上一致させる「調整弁」のような役割がある。事実、四半期の統計では結構、変動するものの、年間の統計では在庫品増加の寄与度というのは大きくない。平均をとると均されてしまうためである。ある期間に積み上がった在庫はいつか解消される。生産調整がおこなわれるからである。なので、在庫の増減は四半期ベースではGDPの変動要因になるが、年間でみればただの調整弁であり、その影響を過大視するのは攪乱要因に振り回されることになる。今回のGDPのマイナス成長というのはまさにその典型例である。

GDPの大きな構成要素である消費も設備投資も純輸出も、ざっくり言えば大きな変化がなかった。そういう点では景気の回復力は確かに強くない。大項目に変化がないなか、調整弁である在庫品の減少がそっくりGDPの下押し要因となっただけである。実際、この在庫の動きを消去すればGDPの伸びはプラスである。(表1ご参照)



それが前述した日本の景気はそれほど悪くないということである。それを一番、分かっているのはマーケットだ。月曜日、あれほどGDPショックと大騒ぎして急落したが、TOPIXは火曜、水曜、そして本日と3連騰、ほぼ下げを取り戻している。

一番、分かっているのはマーケットだと書いたが、もうひとり、こうなる展開をおそらく予想していたひとがいる。ほかならぬ、安倍晋三首相である。その点については、次回のレポートでまた述べたい。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

■ご留意いただきたい事項
マネックス証券(以下当社)は、本レポートの内容につきその正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。当社が有価証券の価格の上昇又は下落について断定的判断を提供することはありません。
本レポートに掲載される内容は、コメント執筆時における筆者の見解・予測であり、当社の意見や予測をあらわすものではありません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがございます。
当画面でご案内している内容は、当社でお取扱している商品・サービス等に関連する場合がありますが、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。
当社は本レポートの内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。
本レポートの内容に関する一切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布することはできません。当社でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動・金利の変動・為替の変動等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそれがあります。また、発行者の経営・財務状況の変化及びそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそれがあります。信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。
なお、各商品毎の手数料等およびリスクなどの重要事項については、マネックス証券のウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」(※)をよくお読みいただき、銘柄の選択、投資の最終決定は、ご自身のご判断で行ってください。
((※)https://info.monex.co.jp/policy/risk/index.html)

■利益相反に関する開示事項
当社は、契約に基づき、オリジナルレポートの提供を継続的に行うことに対する対価を契約先金融機関より包括的に得ておりますが、本レポートに対して個別に対価を得ているものではありません。レポート対象企業の選定は当社が独自の判断に基づき行っているものであり、契約先金融機関を含む第三者からの指定は一切受けておりません。レポート執筆者、並びに当社と本レポートの対象会社との間には、利益相反の関係はありません。

(マネックス証券)


マネックス証券
株式売買手数料(指値) 口座開設
10万円 30万円 50万円
100円 250円 450円
【マネックス証券のメリット】
日本株投資に役立つ「決算&業績予想」、信用取引ではリスク管理に役立つ信用取引自動決済発注サービス「みまもるくん」が便利。米国株は最低手数料5ドル(税抜)からお手軽に投資が可能で、米国ETFを通じて世界中に分散投資できる。投資先の調査、リスク管理、リスク分散など、じっくり腰をすえた大人の投資ができる証券会社と言えるだろう。一方、短期・中期のトレードに役立つツールもそろっている。逆指値ほか多彩な注文方法が利用できる上に、板発注が可能な高機能無料ツール「新マネックストレーダー」が進化中だ。日本株、米国株、先物取引についてロボットの投資判断を日々配信する「マネックスシグナル」も提供しており、スイングトレードに役立つ。
【関連記事】
◆AKB48の4人が株式投資とNISAにチャレンジ!「株」&「投資信託」で資産倍増を目指せ!~第1回 証券会社を選ぼう~
◆マネックス証券おすすめのポイントはココだ!~日本株手数料の低さ、ユニークな投資ツールが充実しているネット証券大手
マネックス証券の口座開設はこちら!

 

株主優待名人の桐谷さんお墨付きのネット証券!最新情報はコチラ!
ネット証券口座人気ランキングはコチラ!
NISA口座を徹底比較!はコチラ
株主優待おすすめ情報はコチラ!
優待名人・桐谷さんの株主優待情報はコチラ!

 

Special topics pr

ZAiオンライン Pick Up
[クレジットカード・オブ・ザ・イヤー2017]2人の専門家が最優秀クレジットカードを決定! 2017年版、クレジットカードのおすすめはコレ! おすすめ!ネット証券を徹底比較!おすすめネット証券のポイント付き 最短翌日!口座開設が早い証券会社は? アメリカン・エキスプレス・ゴールド・カードは、 本当は“ゴールド”ではなく“プラチナ”だった!? 日本初のゴールドカードの最高水準の付帯特典とは? 高いスペック&ステータスを徹底解説!アメリカン・エキスプレスおすすめ比較
ZAiオンライン アクセスランキング
1カ月
1週間
24時間
じぶん銀行住宅ローン 「アメリカン・エキスプレス・ゴールド・カード」付帯サービスはプラチナカード顔負け!最強ゴールドカード 実力を徹底検証  アメリカン・エキスプレス・スカイ・トラベラー・カード 「アメリカン・エキスプレス」が誇る、高いスペック&ステータスを徹底解説!
ダイヤモンド・ザイ最新号のご案内
ダイヤモンド・ザイ最新号好評発売中!

新理論株価で儲かる株
株主優待ベスト130
ふるさと納税ベスト86

1月号11月21日発売
定価730円(税込)
◆購入はコチラ!

Amazonで「ダイヤモンド・ザイ」最新号をご購入の場合はコチラ!楽天で「ダイヤモンド・ザイ」最新号をご購入の場合はコチラ!


【株主優待ベスト130&新理論株価で買う株】
桐谷さん&優待ブロガー&ザイ読者が厳選!
 初心者も安心!株主優待ベスト130
失敗しない優待株の投資のワザ
●「優待+配当」利回りベスト30
少額で買える優待株ベスト30
権利確定月別の優待株ベスト 130
新理論株価まだ買える株68
年末までに駆け込め!ふるさと納税86
 3大カニマップ&寄附額管理シート付き! 
iDeCoつみたてNISAもこれが大事!
 騙されるな!投資信託選び10の落とし穴
●高配当&高成長の米国株ベスト12
地方上場の10倍株&佐川急便の投資判断
別冊付録!つみたてNISA完全ガイド

「ダイヤモンド・ザイ」の定期購読をされる方はコチラ!

>>「最新号蔵出し記事」はこちら!

>>【お詫びと訂正】ダイヤモンド・ザイはコチラ

Apple Pay対応のクレジットカードで選ぶ! Apple Payに登録して得する高還元率カードはコレ! 堀江貴文や橘玲など人気の著者のメルマガ配信開始! 新築マンションランキング
ZAiオンラインPickUP