誰しも日々、さまざまな経験をしています。特に“凄い”経験をしていない大学生であっても、それなりに外出さえしていれば、さまざまな経験をしているはずです。授業でも、バイト先でも、友達関係でも、サークルの中でも。

 問題はそのような経験をどう振り返り、どう意味づけできているかです。

 学生生活の中では、感想文、レポート、報告書というのはつきものです。これらは書く訓練のためでもあるのかもしれませんが、経験を振り返るツールなのです。

 しかし、多くの場合、そのような説明はほとんどされずに課題が出されているため、本当の意味を理解せずに、多くの人は面倒がりながらこれらを書いています。本当にもったいないことですが……。

経験学習サイクルを
採用に当てはめると

 この「経験学習」の考え方は、採用の場面でも活用できますし、大学生のキャリア支援にも直接的に活用できます。

 面接で語られた経験について、きちんと経験学習のサイクルが回せていることが確認できれば、そこから得られたものは自らの身についていることが推察されます。自分の中でしっかりと教訓化、持論化ができていることは、次に似たようなことが起こっても、きちんと対処できる可能性が高くなります。つまり再現可能性の高い経験だということです。

 これによって、先に挙げた「過去のことを聞くときに注意する3つの点」のうち、「(2)たまたまうまくできちゃった事実ではないか(再現性はありそうか)」の心配はあまりなくなります。また「(1)他人がやった事実について自分だけでやったように調子よく語ってはいないか」についてもおおよそ安心できます。自ら考え悩み実行したことでなければ、そこまできちんと内面に入り込んだ話はなかなかできませんから。

面接で自然に
「対話」が生まれるとき

 (3)の「限られた同質的な人間関係の中での感動的ドラマではないか」、については、少し色合いが違います。

「サークルの代表とメンバーとの間に仲たがいが生じ、それを自分が副代表として間に入って解決して、目標に向かって最後は一緒に進めるようになった」というようなストーリーが該当しますが、要は同じようなことが、相反する利害関係がぶつかる多様な価値観に満ち溢れている複雑な世界でも通用するかどうかの問題です。

 これを面接の場で確認するのは難しいところがあり、経験学習サイクルを意識した面接の弱点といえます。明確な指標を設定して分析することにはなかなか活用しにくいのです。「こことここを押さえればOK」というような目的打算的な思想ではなく、経験全体をどう捉えるかによって成長するという考え方ですから、これは仕方がありません。

 ただ、そうであってもなお、経験学習サイクルの回し方の確認によって、異なる人間関係でも応用できそうか否か、ある程度の類推はできるでしょう。

 面白いもので、経験学習サイクルが回っている良質の経験の話には、面接中であるにも関わらず、面接官も話に引き込まれるものがあります。面接の中で自然な質問が面接官の口から出て、自然な応答が応募者からも発せられます。一問一答的なやりとりではなく、面接が自然な対話の場になっていきます。
よくよく考えると、営業の商談でもそういった雰囲気の場に持ち込める人のほうが商談成功率は高いはずですね。

 そういう対話ができれば、学生も面接官も、ズレを可能な限り縮めていけるのです。

 今回は面接の話を通じて、大学時代に経験学習サイクルをしっかりと回す機会を持つことの大切さを説明しました。最後に、私たち側の戒めについても付け加えたいと思います。