今年4月、政府がフリーターの就職支援策の柱と位置づける「ジョブ・カード制度」がスタートした。

 ジョブ・カード制度とは、フリーターやシングルマザーが、ハローワークにいるキャリアコンサルタントとともに、職歴や職業訓練歴、資格等のキャリアをまとめた「ジョブ・カード」を作成し、それを企業への就職に役立ててもらおうという制度。ジョブ・カードは、いわば、政府お墨付きの履歴書である。

 といっても、キャリアを記載しようにも、フリーターには正社員として長期間働いた経験がない。そこで、企業による職業訓練プログラムを用意しているのが、ジョブ・カード制度の特徴だ。実践的な訓練を行なうことによって、訓練実施企業か、他の企業への就職が有利に働くことを狙っている。

 キヤノンでは、制度開始に先駆けて3月から8月までの半年間、17人を対象に職業訓練を実施した。訓練生は電気設備や開発、調達部門に配属され、業務訓練や社外研修(座学)を受けた。

 訓練という名目ではあるが、訓練生には、月給15万5000円が支払われた。9月中にも、キヤノンは“卒業生”の一部を正社員として採用する方針だという。現実化すれば、職業訓練生の“正社員化”第1号になる。

 もっとも、明るい話ばかりではない。政府は、5年後の2012年度までに、ジョブ・カード利用者の目標を100万人に据えているのだが、この8月までの利用者はわずか1万3000人しかいない。ジョブ・カードの存在が、世間にも、企業の人事担当者にも浸透していない。

 企業による職業訓練プログラムにおいても課題が多い。

 職業訓練には、訓練後の就職を前提とする「実践型人材養成システム」と、訓練後の就職を約束しない「有期実習型」の2種類ある。政府は今年度の訓練生の数を、前者では2000人、後者では1万人としていたが、目下のところ、前者では923人、後者ではわずか31人にとどまる。

 とりわけ、有期実習型の職業訓練は、大企業ではキヤノンと松下電器産業でしか実施されておらず、この2社にしてもキヤノンは日本経団連会長会社であり、松下電器はジョブ・カード推進協議会会長会社であることが動機であろう。

 「1人当たりの研修費用は半年で約150万円かかるが、助成金でカバーできるのは半分程度。企業の持ち出しが多い割に、採用できる訓練生はわずかで、慈善事業に近い」(城本周策・キヤノン人事部課長)のが実態だ。

 ジョブ・カード制度導入に向けて、厚生労働省は来年度217億円の概算要求を出している。181万人ものフリーターの“救世主”と期待された制度だが、前途は多難だ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 浅島亮子)