日本人として音楽史上、最初にグローバルなオペラ歌手として活躍した三浦環(1884-1946)については、連載第61回に詳しく足跡を記した。ちょうど機械式録音の蓄音器が登場し、レコード産業が日本でも成長を始めた時期に当たり、オーディオ初期の録音がかなり残っている。残念ながらCD化された製品はすべて廃盤だが、各地の図書館に収蔵されているものもあるので、ぜひ一度は聴いていただきたい。忘れられつつある存在だが、歌唱の記録は多数残っている。

CD版「三浦環全集」の曲目

オペラのアリアから流行歌まで110曲、<br />三浦環が残したクロスオーバーな録音1941年12月20日、21日の公演「三浦・藤原と管弦楽の午後」(日比谷公会堂)のチラシ。マンフレート・グルリット指揮による東京交響楽団が伴奏している。日米開戦直後の時期だ。三浦環の演目に山田耕筰がアレンジした流行歌「船頭可愛や」が入っている。レコードも発売していた。このオーケストラは現在の東京交響楽団ではなく、東京フィルハーモニー交響楽団の前身。グルリットはこの年から藤原歌劇団常任指揮者だった
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 三浦環はニッポノフォン、日本蓄音器商会(いずれも現日本コロムビア)、米国コロムビア、ビクター蓄音器などに約110曲を録音して発売している。1910年代から40年代の約30年間である。また、NHKも戦後まもなく10曲程度は録音し、ラジオ放送で公開している。

 1995年にSPレコードの音源をデジタル化した「三浦環全集」(CD5枚組、1995年4月21日)が日本コロムビアから発売されている。LP時代にも3枚組である程度の曲数は発売しているはずだが、没後50年を記念して録音年代順に全曲を配列した「全集」はこれが初めてだった。

 後世への記録のために曲目を書き出しておこう(曲名表記はCDセットに記載されているとおり)。

●ディスク1
1. 夜の調べ(グノー)
2. 「カヴァレリア・ルスティカーナ」~あ、見たか(マスカーニ)
3. 「蝶々夫人」~さよなら花の隠れ家よ(プッチーニ)
4. 「リゴレット」~女心の唄(ヴェルディ)
5. 「蝶々夫人」~ある晴れた日に
6. 「蝶々夫人」~可愛がって下さいね
7. きんにやもにや(日本民謡)
8. 来るか来るか(山田耕筰)
9. サンタ・ルチア(ナポリ民謡)
10. オー・ソレ・ミオ(ディ・カプア)
11. シューベルトの子守唄
12. 薔薇よ語れ(フランケッティ)
13. セレナーデ
14. アイ・ラヴ・ユー
15. ブラームスの子守唄
16. ピアント・アンチコ(古き涙、フランケッティ)
17. 「ボッカチオ」~恋はやさし野辺の花よ(スッペ)
18. 白い月
19. 「蝶々夫人」~操に死ぬるは
20. お江戸日本橋(日本民謡)
21. ホーム・スウィート・ホーム(埴生の宿、ビショップ)

●ディスク2
1. 庭の千草(夏の名残のバラ、アイルランド民謡)
2. 三十三間堂(やなぎ)上
3. 三十三間堂(やなぎ)下
4. さくら
5. 来るか来るかと
6. きんにやもにや
7. パチパチヨ
8. サンシャイン・オブ・ユア・スマイル
9. マザー・マチュリー
10. 庭の千草
11. アロハ・オエ(リリウオカラニ)
12. 「ミニヨン」~君よ知るや南の国(トマ)
13. ホーム・スウィート・ホーム
14. 「ミニヨン」~君よ知るや南の国
15. 庭の千草
16. 毬唄
17. きんにやもにや
18. 背戸の段畑(俗曲)
19. 「蝶々夫人」~ある晴れた日に
20. 「蝶々夫人」~操に死ぬるは