なぜ、朝10時と夕方5時の2回、
巡回したのか?

 整理整頓ができたら、その状態を維持するために「清掃」します。
 プラントの場合、毎日現場を巡回して、整頓された状態が維持されているかどうかチェック。

 現場巡回は、ルールが守られているか、決められたことがきちんと行われているかという社員の動作確認でもありますが、清掃の役割も担っています。

 私は、朝10時と夕方5時の1日2回、巡回しました。

床にエロ本、壁にヌード写真の会社が、<br />なぜ「掃除大賞」&「文部科学大臣賞」を<br />同時受賞したのか?


 理由は2つあります。

 1つは、その頻度でチェックしないと、社員の気持ちがすぐ3Sから離れてしまうからです。

 もう1つは、朝10時と夕方5時では目的が違うからです。
 10時の巡回では、どんな状態で現場がスタートしているか、社員がどんな働き方をしているか、プラント内がどう動いているかを中心にチェックします。

 一方、夕方5時は仕事を片づけ始める時間なので、仕事がどのくらい残っているかを確認します。

 10時の時点であった仕事が、どれくらい残っているかを見れば、そのプラントの力量がわかります。

 長いスパンで見れば、仕事の力量がどのくらいアップしているか、あるいはダウンしているかをチェックすることもできます。

私が巡回中に「トホホ……」と思ったこと【ベスト3】

 正直言えば、巡回は気が滅入る仕事でした。
 最初のうちは、毎日目をそむけたくなるような現実を見せつけられました。

 巡回に出発する前、ヘルメットをかぶりながら、
「頼むから嫌なものを見せないでよ」
 と願います。

 でも巡回すると決まって、「またこんなことやっているよ」という現実に直面しました。

 特に夕方になると、仕事のモチベーションがダウン。
 ヘルメットをかぶっていない、気が抜けて片づけに手を抜く、面倒くさそうに仕事をする、道具を投げ捨てる、など、見たくもない姿をたくさん目の当たりにしました。

 なかでも「トホホ……」と思ったベスト3は次のとおりです。


★第3位 さぼってマンガを読んでいる

 ラインの選別作業をさぼって、廃棄物の山から拾ってきたマンガを読んでいる社員。

「ふざけんな! 仕事しないなら、辞めちまえ!」

 と何度も怒鳴りつけました。

★第2位 夜中に「ホイールローダー」を乗り回す

 夜間に循環したとき、「ゴゴゴゴゴゴー」という爆音を聞いたことがありました。音のするほうに急いで走っていくと、大型ホイールローダー(土砂などをダンプカーに積むときに使われる重機)が猛スピードで走っているではありませんか!

 まるでアクション映画の撮影現場のようでした。
 不良中学生がバイクを乗り回すような感覚で、ホイールローダーで遊んでいたのです。もう本当にまいりました。

★第1位 フナムシのようにサササッと逃げていく

 巡回に慣れてくると、私の姿を見つけた瞬間、社員が急に背を向け、テキパキと仕事をするようになりました。
 海の岩場に足を置くと、フナムシが一斉に逃げるでしょう。
 あれと同じ動きがプラント内で一斉に起こるのです。
 私の姿を見かけると、「やべえ、社長がきちまったぞ!」と一斉に社員が慌て始める。
 これもトホホでした。

 こんなひどい状況が4年間続きました。
 私は毎日、「人育ては時間がかかるもの」と自分に言い聞かせました。

 そして、現場を歩き、「巡回指導報告書」を書きました。
 これは、現場を巡回して3Sが徹底されているか、挨拶はきちんとできているかなどを書き入れるもので、日報とは別につくりました。

これは現在も続いていて、「巡回指導報告書」のチェックは、私が社長になってからの12年間、1日も休んでいません。

「会社をもっとよくするんだ。永続企業にするんだ」
 という想いだけが私を突き動かしていました。

 こうして3Sが徐々に根づいていきました。
 社長就任から8年がすぎた頃、社員の意識が変化してきたのがわかりました。「石の上にも3年」と言いますが、当社の場合、“石の上にも8年”でした。