「この日を心待ちにしていました。台湾といえば、『宝島』と言われる美しいところ。念願の台湾旅行が実現するなんて、うれしくてワクワクです。わずか2時間で着くなんて、本当に近いんですね」

 3月上旬、上海発の直行チャーター機で台北の松山空港に降り立った中国人観光客の中年男性は、興奮気味にこう話した。

 この男性は、上海出身のビジネスマン。5泊6日で約6000中国元(約8万5000円)のツアーに妻と2人で参加し、初めて台湾各地を周遊するという。
 
 特に楽しみにしている観光スポットは、台湾で没した蒋介石元総統を記念した中正紀念堂や、中国の故宮(紫禁城)から台湾に移送された文物を展示している故宮博物院など、中国にもゆかりのある場所だ。大陸でも人気の高かった歌手、故テレサ・テンの墓参りもしてみたいという。

 この男性のように、現在台湾を訪れる観光客が急増しているという。

 台湾の報道によると、直行チャーター便が定期化した昨年7月から12月までの中国人観光客数は、約5万4000人にも上っている。筆者も3月下旬に北京を訪れた際、テレビ番組で大々的に「台湾観光特番」が放送されているのを見て、中台の急速な“接近ぶり”に驚いたところだった。

 もちろん、「単なる観光旅行先として台湾が注目されている」というほど話は単純ではない。

 中国と台湾といえば、1949年の中華人民共和国の建国以来、政治問題で対立し、敵対し合ってきた間柄。ここに来てそんな中台が急接近しており、その兆しが「中国人の台湾観光」の動向に現れ始めているというのだ。

 いったい何故、中国人観光客が台湾旅行に大挙して押し寄せるようになったのか? そして、双方の“思惑”とは何なのか?

 どうやらそこには、中台の政治問題、そして台湾の経済事情が関係しているようなのだ。日本の観光業界も、国際的に存在感を増す中国人観光客を誘致しようと躍起になっているだけに、気になるところだ。

半世紀以上続いた対立に
一石投じる観光客誘致政策

 そもそも、中国と台湾は地理的に近く、歴史的に関係が深かった。まずはその歴史をわかり易く説明しよう。中台が反目し合うきっかけとなったのは、第二次世界大戦後、中国国民党と中国共産党が衝突し、内戦に陥ったことによる。