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日銀の追加緩和は両刃の剣 どう転んでも「出口」を意識させることに - 広木隆「ストラテジーレポート」

バリュエーションレンジの確認

2015年の日本株式市場は、企業業績の伸びをストレートに反映して日経平均で22,000円を超える水準まで上昇すると予想した(12月25日付けストラテジーレポート「2015年相場展望Vol.2 バリュエーション」)。来年度(2016年/3月期)の日経平均の予想EPS(1株当たり利益)は1320円になると考えるので、PER15倍で約2万円、17倍まで買われれば22,000円超となる。よって、22,000円というのは自然体で到達可能な水準である。しかし市場が、「妥当な予想EPS」を「適切に」織り込むことができるかは、甚だ心許ない。例えば、今年度(2015年/3月期)の日経平均の予想EPSは、3月決算を締めてみれば1200円になると想定しているが、株式市場が、1200円×PER15倍=1万8,000円という評価をしたのは昨年12月に取引時間中につけた一瞬だけのことである。すなわち「後から振り返って分かる正しいEPS」を「事前に」「適切に」織り込むことができたのは、年末になってやっと、ということだ。ちなみに日経新聞に載っているPERから逆算したEPSはいまだに1100円である。

こうしたことを参考にすると、今から3月決算が発表になるまでは1200円に向けて徐々に市場コンセンサスを形成していき、決算発表が出そろう5月中旬には2016年/3月期予想EPSとして1250円程度がコンセンサスとなるのがせいぜいだろう。そのEPSをもとにPER15〜16倍が適正水準とすれば、日経平均は1万8750〜2万円のレンジで推移するだろう。年度後半になって1320円を織り込めれば上出来である。

国債購入の増額はこれ以上無理

最終的には実力ベースで ― 自然体で ― 2万円超の水準に達するが、相場上昇のカタリスト(きっかけ)となる要因として、日銀の追加緩和を想定している。前回のレポートで述べた通り、2016年夏の参院選前にデフレ脱却宣言を出すことを至上命題とする安倍政権からのプレッシャーによって、黒田・日銀には追加緩和を躊躇している時間的余裕はない。早い段階で措置が講じられることになるだろう。この点については原油安が都合のよい口実(もしくは隠れ蓑)になった感がある。すなわち、原油安でインフレ率が低下するために追加緩和を打つという、経済的な大義名分ができたからである。

過去の2回の日銀緩和はいずれも相場上昇のカタリストどころか、起爆剤とも言える役割を果たしてきたが、次の緩和は起爆剤にもなり得る一方、相場の下落を招きかねないリスクをも孕んでいる。いわば「両刃の剣」である。

昨年10月末の追加緩和で日銀は、マネタリーベースを年10兆〜20兆円増やし、年80兆円に拡大することを決めた。その手段として、長期国債の買い入れ量を30兆円増やして80兆円に、上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(REIT)の購入量は3倍に増やすこととした。

次に緩和策を打ち出すとすれば、どのような内容になるだろうか。普通に考えれば ― 今、何気なく常套句のように「普通に考えれば」と書いたが、この点はあとでレビューするので覚えておいてほしい ― これ以上、国債の買い入れ額を増やすことは難しい。日銀の営業毎旬報告によれば、国債の保有額は現在約250兆円。このペースでいけば年度末には300兆円を超える。長期国債の保有額は200兆円で、長期債残高全体に占める日銀の保有比率は4分の1、数年後には5割を超えるとの予想もある。国の借金を中央銀行が肩代わりする財政ファイナンスの状況である。「だから、これ以上買えない」というのではない。技術的にこれ以上買い入れを増やせない。買いたくても、買うモノがないのだ。国債市場は完全に「売り手不在」の状況である。
上述の通り、日銀は10月末の追加緩和で長期国債の保有残高を年80兆円のペースで積み増す方針を決めた。償還分も考慮すると買い入れ規模は110兆円にのぼると見られるが、これは短期国債等を除いて国債発行額をほぼ全額買い取っているのに近い。そういう状況のところ、国債の新規発行が減少する。元日の日経新聞は、「2015年度の政府予算で、国債の新規発行が14年度の41. 3兆円から37兆円台に減る見通し。企業業績の好転で税収が増え、地方への財政支援も減るため」と報じた。誤解のないように注記すると、あくまで「新規」発行額が前年より減るだけで、国債発行残高そのものは借り換え分の発行もあり増加する。しかし、ただでさえ需給が引き締まっているところに加えて、国債供給量の増加が抑制されることは確かだ。これ以上、日銀が無謀な買い入れを続ければ、足元で過去最低を更新している長期金利は早晩ゼロ%に、そして短期金利同様、長期金利までもマイナス金利という異常な世界に突入する恐れがある。

そうした異常事態は、普通に考えれば ― 繰り返しになるが、あとでレビューするので覚えておいてほしい ― 日銀だって、というより、日本の金融政策を司る日本銀行だからこそ看過できないはずである。

追加緩和の内容

消去法的に考えられる追加緩和策としては国債買い入れの増額を抑制し、ETFの買い入れを増やすしかないだろう。どのような組み合わせになるだろうか。もっともあり得そうなのは、

「国債買い入れを10兆円増やして積み増しを年90兆円とする + ETF買い入れを現在の3兆円から6兆円に倍増させる」…(ケース1)

という案だろう。これだけタイトな国債市場の需給を考えれば、ここからさらに10兆円増額というのも相当なものだが、見た目のインパクトは弱い。当初50兆円の積み増し、それを昨秋に30兆円追加で80兆円の積み増しとした。次回に積み増し額が10兆円では、その次にはいよいよゼロになる ― との印象を市場に与えるだろう。そしてケース1では、マネタリーベースはたいして増加しない。いよいよ、日銀の量的緩和も限界に達しているというイメージを市場は持つだろう。

そう考えると、
「国債の買い入れ増額なし + ETFを大規模に(例えば10兆円)増額」…(ケース2)

というのはあり得ないだろう。国債購入の増額を見送るというのは、一気に量的緩和を縮小させるようなものだ。ケース2が発表されれば金利は急騰するだろう。ケース2は「日銀は国債買い入れ額を増やさない」というのが正しい表現なのだが、「日銀はもうこれ以上国債を買わない」と誤った印象を市場に与えかねない。よって一足飛びにケース2を採用するのは危険と日銀執行部は判断するだろう。

これでわかった通り、次回の日銀の追加緩和は「量的緩和の出口を示唆すること」を避けて通れない。あくまでも、「追加緩和」なのだが、市場に与えるメッセージの効果をよく考えないと「出口」のインパクトが強くなる可能性もある。アクセルを踏みながらブレーキにも足をかけ、車の軌道をぶらさずに前進させる舵取りが求められる。金融政策としては超ウルトラCの難易度だ。

こうした政策がとられるとしたら、それは ― 実態はまったく違うのだが ― 昨年FRBがおこなったテーパリング(量的緩和の縮小)に近い印象を市場は持つだろう。FRBは資産購入額を毎回100億ドルずつ減額して昨年秋にはついに資産購入をストップした。日銀はいまも国債等を購入しているし、それは今後も続けるのだが、「アクセルをさらに踏む」という印象が薄れるのはFRBのテーパリングと同じ ― つまり、一種の「出口政策」という示唆を市場に与えてしまうだろう。

そうならないためには、ETFの購入量を莫大に増加させ、そちらのほうで市場の驚きとマネタリーベースの増加を狙うしかないわけだが、果たしてそこまで踏み込んだ意思決定が日銀にできるかは不明である。
市場の反応 ― 金利上昇・円高リスク

次回の追加緩和がこうしたパッケージになるとすれば市場はどのように反応するだろうか。ETF買い入れ額の(大幅)増加は株式市場にポジティブであることは言をまたない。一方、債券市場にとっては悪材料だ。行き過ぎた金利低下の反動で、金利の急騰を招きかねない。当然、円高要因にもなる。これが株価の頭を抑えるリスクはあるだろう。日銀のETF買いと金利上昇・円高の綱引き ― それが「日銀の追加緩和は両刃の剣」の意味である。

普通ではありえないシナリオ

「普通に考えれば」かくかくしかじか、とシナリオを提示したが、「普通に」考えてはいけないのかもしれない。僕の相場観のいちばん根底にあるのは、「2016年夏の参院選前にデフレ脱却宣言必達」という条件である。そこから逆算すれば、なりふり構わず政策が動員されるだろう。

「国債買い入れを20兆円増やして国債残高の積み増しを年100兆円とする」…(ケース3)

というのは「普通に考えれば」ない。だけど、状況はもはや「普通」ではないのだ。常識を捨て去ることも必要かもしれない。繰り返すが、日銀は長期国債の発行分をほぼ全額買い入れている。市場に出回っている国債がないなかで、あと20兆円も購入額を増やすというならば、それはとんでもない条件をつけて国債を抱いている機関投資家からひっぺがすようにして召し上げるしかない。とんでもない高値 - すなわちマイナス金利である。ケース3が発動された場合、10年債利回りもマイナスとなるだろう。短期金利も中期金利も長期金利も、日本国債のイールドカーブ全体がマイナス圏に沈む超異常事態となる。

空恐ろしい気がする。

今年前半の投資戦略

今年は「Sell in May(5月に売れ)」が正解だと思う。4月末〜5月上旬の3月決算発表では上方修正ラッシュとなるだろう。4月末の物価展望レポート発表に合わせて、日銀の追加緩和があると予想する。好業績&追加緩和でのETF買いを受けて、日経平均は2万円前後まで上昇すると想定している。但し、上述の通り、次回の追加緩和はどう転んでも「出口」を市場に意識させることになる。金利上昇・円高となって株価は調整に入るだろう。年央に予想される米国の利上げが視野に入れば、それに対する警戒感も浮上する。夏場にかけて大きな下げとなるリスクがある。春の決算を受けて一旦、利益確定を狙うのが上策と思う。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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