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ニッポン 食の遺餐探訪

昔ながらの容器で価格競争と環境問題に対抗
「下仁田納豆」が教えてくれる日本の食の未来

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第26回】 2015年1月7日
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昔は冬の食べ物だった納豆。俳句でも冬の季語である。たしかに冬の寒い朝に炊きたての御飯、味噌汁に納豆はよく似合う

 必要があってこのところ江戸時代の文献を調べている。江戸の食文化は日本料理の原点とも言われるが、日本人が味付けの中心となる醤油や味噌をはじめ、豆腐などの大豆製品を上手く食べていたことがよくわかる。すごく単純に言えば日本料理とは大豆で米を食べる文化なのだ。

 なかでも特別な地位を与えられているのが納豆である。納豆には大徳寺納豆などに代表される塩辛納豆と、糸引き納豆の2種類があるが、今回はお馴染みの糸引納豆の話。

 冬のものだった納豆を年中、食べるようになったのは江戸時代の中期からとされ、味噌汁の具として一番の人気を得ていた、とも言われる。朝になると行商人が「なぁっと、なっとぉー」と歌うような声をあげながら、納豆を売り歩いていた。

 その頃は行商人がザルで運び、量り売りをしていたようだが、明治期には藁納豆が広まる。大正期には経木(きょうぎ)や竹の皮で包まれた納豆の容器が登場する。

 納豆にとって大きな事件が起きたのは1953年3月のこと。千葉県のある納豆業者が稲わらがねずみの糞尿で汚れていることに気づかないまま、充分な消毒もせずに納豆を製造してしまったのだ。サルモネラ菌が混入された製品を食べてしまった人、150人以上が被害にあい、3人が命を落とした。事件以来、稲わらを使った製造は避けられるようになった。

 納豆の容器の歴史は、日本人の食卓の変化を表している。戦前から戦後にかけては大きな丼で納豆を混ぜて分かち合う光景が食卓に見られた。昭和の中頃になると発泡スチロール製の容器や紙パックが登場し、やがて一般化する。100円前後の小さな発泡スチロール容器の3個詰めパックは大家族から核家族になった現在の食卓を象徴しているようだ。

包みは発泡スチロールではなく「経木」
“一石五鳥”ともいえるそのメリット

経木で包まれた『下仁田納豆』の代表的製品

 下仁田ネギで有名な群馬県下仁田町にある『下仁田納豆』は昔ながらの経木納豆を製造している会社だ。百貨店などの高級スーパーの棚に三角形に包まれたパッケージを見かけることも多い。

 下仁田納豆、本店で南都隆道社長からお話を伺った。

 「納豆屋は元々、私の父がはじめたものです。私が子どもの頃は朝になると「なぁっと、なっとぉー、なっとー」と引き売りをしていました。正直、その頃は父親を見て『スケールの小さい仕事だな』と思っていました。高度経済成長期、まっただなかだったので、全国とか世界を相手にしたスケールの大きな仕事をしたいなと考えていたわけです」

 南都さんは大手企業に就職し、社会人として働きはじめる。仕事は面白かったが、都会での生活に迷いも生じはじめたと言う。

 「田舎なんてと思っていたんですが、外に出てみると良さがわかった、というか。この土地の風土の素晴らしさとか、ずっとここにいたらわからなかったと思います。納豆なんかも各土地土地でいただいてはみたのですが、振り返ってみるとうちの納豆が非常に美味しく感じられたんですね」

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

「ニッポン 食の遺餐探訪」

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