長寿の食卓~あの人は何を食べてきたか~ 樋口直哉
【第10回】 2015年1月8日 樋口直哉 [小説家・料理人]

季節と土地に合った食生活こそ元気の秘密

※享年(数え年で表記)
イラスト/びごーじょうじ

 飯田深雪はアートフラワーというジャンルの創始者。アートフラワーとは彼女の造語で、布でできた造花のことだ。終戦直後の焼け跡が残る仮住まいで生まれたアートフラワーは、現在でも高い芸術性が評価されている。外交官と結婚、海外暮らしをしていた彼女は、その経験を生かし料理研究家としても活躍。西洋料理を日本の食卓に広め、またテーブルセッティングやマナーの普及などに努めた。広く知られているわけではないが、現在の日本人の生活様式の確立に大きく貢献した人物と言える。

 驚くのは彼女が100歳を超えてなお現役だったこと。教室で生徒に指導し、NHKの長寿料理番組『きょうの料理』に、100歳を記念して出演、1972年に放送されたビーフシチューのレシピを振り返った。飯田深雪は食生活こそ元気の秘密とし「季節の食べ物を食卓に取り入れること」と「自分の暮らす土地で育った食べ物を食べること」の二つを再三説いていた。

 ところで料理をする人は長生きなのだろうか。最近、台湾とオーストラリアの共同研究グループが行った調査によると、家庭で料理をする頻度の高い人が最も長生きするという結果が報じられた。家で料理をする人は食物繊維とビタミンCを多く摂取し、コレステロールも取り過ぎていなかった。さらに公共の交通機関を利用するなどして、よく歩いているという傾向が見られたという。

 あくまで統計的な結果で、科学的なエビデンスとはいえないが、料理をすることは社会性に関与し、家庭経済学や調理科学をはじめ、さまざまな思考を促す。また、料理をすることで脳の前頭前野の働きを活性化し、認知症の周辺症状の緩和効果が期待できるという論文もある。つまり料理は体だけではなく頭にもいいのだ。

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


長寿の食卓~あの人は何を食べてきたか~ 樋口直哉

1日でも長く生きたい――。きっと多くの人が望むことだろう。では、実際に長生きをした人たちは何を食べてきたのか。それを知ることは、私たちが長く健康に生きるためのヒントになるはずだ。この連載では、歴史に名を残す長寿の人々の食事を紹介。「長寿の食卓」から、長寿の秘訣を探る。

「長寿の食卓~あの人は何を食べてきたか~ 樋口直哉」

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