「実は、SPAはそれほどうまく行っていない。不況の影響で、昨年秋以降の売り上げは特に厳しい・・・」

 ある大手アパレル企業の関係者は、こう嘆く。

 日本上陸で人気沸騰のH&Mやフォーエバー21、ユニクロの快進撃で不況にもかかわらず最高益を更新中のファーストリテイリングなど、最近話題をふりまいているSPA企業(製造小売り業)は多い。世間では、「SPA企業は好調」という一般論が定着しているようだ。

 ところが、流通関係者の話をつぶさに聞いてみると、必ずしもそうとは言えない。むしろ「うまく行っているSPA企業の方が少ない」というのが、実情だという。

「中間マージンカット」と
「顧客起点の商品作り」を実現

 SPAとは、アメリカの衣料品小売大手GAPのドナルド・フィッシャー会長が1986年に発表した「specialty store retailer of private label apparel」の頭文字を組み合わせた造語である。ごくシンプルに言えば、製造から小売までを一貫して行なう小売業態を示す。

 1998年にユニクロがフリースを爆発的にヒットさせたことをきっかけに、競合各社はこぞってSPAに参入した。今やSPAは、特に目新しいものではなくなっている。しかし、「価格競争の熾烈化や大不況の到来により、消費者が低価格でないとものを買わなくなった」(西謙太郎・株式会社プライムピース 代表取締役)ため、ここに来て改めて注目が集まっているようだ。

 そんなSPAの「最大の利点」とは、主に「中間マージンのカット」と「顧客起点の商品づくり」ができることだ。

 今までの衣料品業界では、メーカー、卸売業者、小売業者という流通プロセスのなかで、川下に行くに従って中間マージンがどんどん上乗せされ、店頭で安い商品を売ることが難しかった。不況ともなれば、商品がみるみる売れなくなり、関係者は頭を抱えていたのだ。

 それに対して、SPAに参入した企業は、企画・生産などを自前で行なうことにより、中間コストを大幅削減し、価格競争力のある商品を売ることができるようになった。「流通にはさらなる効率化が求められている。その過程において、今やSPAは欠かせないもの」(小島健輔・小島ファッションマーケティング 代表)なのである。

 また、店舗の売り場やお客の声に直接接し、現状分析を商品開発に生かすことで「ムダのない生産、販売」が可能になれば、やはりコスト削減や売り上げ向上といった効果が期待できる。「店頭の顧客の声」を最大限に生かし、「自分の売りたいもの(=オリジナル商品)」を「売りたい価格」で販売することができるのだ。

 にもかかわらず、冒頭の関係者の話のように、うまく行っていない企業も多いのは何故だろうか。